カナダ・オンタリオ州の“Psychologist”と日本の“臨床心理士”との違いby 佐々木掌子 (2011年10月)

筆者が所属するChild, Youth, and Family Programの受付

日本には「臨床心理士(Certified Clinical Psychologist)」という資格がある。カウンセリングと心理アセスメントを職務の軸とした心理援助をする職業であり、最近では東日本大震災での被災者の心理的なストレスに対応する専門職(しばしばマスコミでは“心のケア”という用語が使用される)として報道されているのをよく見かける。多くの臨床心理士は、病院や学校、その他の公的機関、あるいは企業などのカウンセリング室に勤務しているため、「臨床心理士って国家資格じゃないんですよ」と話すと、たいていの人から驚かれる。

臨床心理士を国家資格化する動きはここ数年でいったん盛り上がりをみせたものの、現在のところ明るい兆しはあまりない。各専門職団体や各省庁の権限や解釈などをめぐる政治的な問題が山積しているため、うまくまとまらないようである。

共に働く医師や看護師、作業療法士や介護福祉士、公立学校の教諭らが「“国家”や“都道府県”からのお墨付き」を貰っている一方、肩身の狭い思いで働く臨床心理士も多いのではないかと思う。しかしながら、臨床心理士の資格取得の道のりはそれなりに長い。4年制大学を卒業した後、指定された臨床心理士養成大学院の修士課程を経なければならない。筆記と面接による資格試験は修士課程修了後の秋にあるので、修士課程修了後の1年間は無資格であり、最短で資格取得には7年を要する。

この教育システムでも国家資格ではないことに残念さを感じつつも、カナダに来てここでのpsychologistの訓練システムを知るにつけ、「日本の臨床心理士とオンタリオ州のpsychologistはレベルが異なる」と思わされている。

今私が住んでいるオンタリオ州のpsychologistになるには、大学で教養課程を経て心理学の専門を学び、その後修士課程に進んでから、最後に博士課程で博士号を取得しなければならない。その間、継続して徒弟的訓練は行われているのだが、それだけに留まらず、博士号取得後も「博士号保持者として」、1年間、特定の指導者からの個別訓練を要するのである。その後さらに筆記と口頭の試験が待ち構えてもいる。

これだけしっかりした教育システムがあるとpsychologistの権限も大きい。

一番わが国と違うのは、診断をつけることができるという点である。臨床心理士は「心理アセスメントはできるが診断をつけてはいけない」ことになっている。修士課程時代、指導教授から“診断”という言葉を使わないよう口酸っぱく言われたことを思い出す。

さらにオンタリオ州の場合、勤務先が病院であればpsychologistによる治療費はすべてオンタリオ州の健康保険(OHIP)でカバーされる。

私がいるジェンダー・アイデンティティ・サービスのメンバーはすべてpsychologistとその卵であるが、その治療費はすべてOHIPでカバーされるのである。もちろんわが国の臨床心理士のサービスは一切国民健康保険に対応していない。

私が日本の臨床心理士の教育制度について研究室のメンバーに話したとき、「それは,psychologistじゃなくてpsychological associatesだね」と言われた。psychological associatesとは、臨床心理士と同じく修士課程を修了した心理カウンセラーで、臨床心理士同様に診断をつけることはできないのだという。

臨床心理士の英語表記はCertified Clinical Psychologistであるが、Certified Clinical Psychological Associatesのほうが、内容を反映した訳語のようだ。

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