北米における「生殖産業」の実態 by サンダース宮松敬子(2011年12月)

日進月歩の医学の発達によって救われた命が沢山あることは、誰もが容易に想像できることです。しかしその一方で科学・化学の進歩がもたらす思わぬ事態が、目に見えない所で広がっていることを知ると、何か空恐ろしい気持ちにもなります。

その一つが、人間の生殖に関する医学の分野です。

「人 工授精」という医学技術が取り入れられたのは、すでに半世紀も前のことでした。男女どちらかに問題があって自然妊娠・分娩が困難な場合、この技術は大変な 救いでした。これによって生まれた子どもの数は計り知れず、子どもを望む人たちへ大いなる光明をともしたことになります。

しかし、最近カナダの全国紙「The National Post」にはこんな記事がありました。

イギリス生まれ、トロント在住のフィルムメーカーの男性(58)は、多数の異母兄弟/姉妹が世界の何処か存在しているのではないかと予想しています。

と いうのが、自分の母親に精子提供をした父親である男性が、過去のある時期30年余りに渡って他の女性たちにも同じことをしていたのが分かり、その数は何と (!)千人ほどにもなるというのです。その内の何人が出産までに漕ぎ着けたかは定かでないものの、その頃のイギリスには法的規制はなく、自由にこうした取 引が出来たようです。

「人工授精」ほどの長い歴史はないものの、近年は「精子バンク」「卵子バンク」「代理母」などに関与するビジネスが、一大産業として驚くほど一般化しているため、その実態に迫る類似の記事が数多く散見されます。

最初の試験管ベビーが生まれたのが1978年で、以来倫理面から多くの議論がされてきましたが、何故ここに来て同様の記事が多く見られるのかは明らかではありません。

でも、生命の根幹に触れるこうした問題が、必要に迫られた人々へのインフォメーションとして知らせるに止まらず、カナダの全国紙が、一般の読者向けに書くことには深い意味があるのではないかと思えます。

当然ながら一般の人たちは、医学的な見地から規制については国が厳しく取り締まっていると思うのが普通です。しかしカナダ・アメリカの場合は、信じ難いことながら、法律があってないような限りなくグレーの領域で、それ故に驚くようなことが起こっています。

一つ「精子バンク」に例を取ってみましょう。

ア メリカなどでは、今のところ一人の男性の凍結精子の販売数には法律的な制限がないため、女性側からの需要がある限りビジネスとして幾らでも取引をしている のです。ということは、先述の人工授精で生まれたフィルムメーカーの男性と同じに、何人もの異母兄弟/姉妹が知らないところで生存していることになり、多 い場合には150人などいうケースもあるそうです。

その数だけでも驚くものの、問題はそれだけでなく、これだけ一般化して来るとその子ど もたちが何処かで偶然に出会わないとは限りません。そしてお互いにまったく知らずに、結婚して子どもを産む可能性がないとも言い切れないのです。となれ ば、これは「近親姦」ということになる上、生まれた子どもは血が近い故に、医学的問題が生じることも大いに考えられます。

カナダの場合は、一人の精子ドナーが提供できる数を3人までと一応規制していると言い、関係者は「それは10万人に一人くらいの割合になるので心配はない」と明言しているのです。

しかしこれを単純計算すると、トロントの街の人口を250万人とした場合、ここに同じ父親の子どもが75人くらい存在する可能性もあることになります。アメリカでは、80万人の人口に同じドナーからの子どもが25人以上増えないことが望ましいとしているそうです。

精子バンクでは、出産後の女性に情報提供を希望しているものの、実際にリポートするケースは20~40%に止まっているのが現状です。

でも一方アメリカでは、精子バンクのサービスで出産したある女性が、インターネットを通して同じドナーの子どもが集まる「ドナー・ファミリー」(実にアメリカ的ですね!)という横の繋がりを築くサイトをオープンしています。

ここで笑えないような現実は、時にそのドナーファミリーが集うと、(当たり前と言えば当たり前かもしれませんが)子どもたちが皆驚くほど似ていることが分かるのだそうです。

と ここまで原稿を書き進めていたら「世界最大の精子バンクが赤毛の男性からの精子提供を 受け入れないことを発表した」というニュースが飛び込んできました。世界65カ国以上に精子を提供しているこのバンクの関係者によると「赤毛の子供を望む 人が少なくなっているから」と説明している、とか。

こうしたことが累々と話題になるのは、「生殖産業」が多大なプロフィットのあるビジネスのためと思われますが、この業界が倫理面での問題には極力目をそむけている例が多いことを物語っているからでしょうか・・・。

 

類似の原稿を日本の雑誌「週刊金曜日」10月14日号に書きましたのでご覧下さい: http://blog2.keikomiyamatsu.com/?eid=15

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