トロントに新たなLGBTQの公立高校が誕生!? by 斎藤文栄 (2012年10月)

 

9月のある日、トロントのゲイ・エリアとして知られるチャーチ・ストリートのコミュニティセンターで、20歳の若者の提案を協議するために開かれた 集会がメディアの注目を引いた。その提案とは、「トロントに新たなLGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア)の公立高校を 作ろう」というものだ。

現在、トロントには、公立高校に通えなくなったLGBTQの子どもたちを受け入れるオルターナティブ・スクールとして、「トライアングル・プログラ ム」が実施されている。1995年に開設され、初めは緊急避難所としての役割が強かったが、徐々にプログラムが拡大され、直近では10人がこのプログラム を使って高校の卒業資格を取得している。トライアングル・プログラムを卒業した学生は、自分らしさを取り戻し、再び外の世界に出て行く自信を取り戻すため に、このプログラムはすごく役立ったと話している。

トライアングル・プログラムのポスター

先 日の提案は、トライアングル・プログラムではなく、全く新しい公立高校の設立を目指そうというもの。新しい高校では、現在、トライアングル・プログラムで 教えられているLGBTQの文学、歴史だけではなく、すべてのカリキュラムがLGBTQの視点で構成されている点に特徴があるという。(門戸はLGBTQ 以外の学生にも開かれている)しかし、この提案には、数学や科学にLGBTQの視点があるのか、そもそも教師はゲイでなければならないのかというカリキュ ラム上の数々の疑問が示されている。

 

有識者に行われたラジオインタビューでもこの提案に対して賛否両論があった。賛成派は、高校でいじめがひどい場合には安心して勉強できる場を与えることも 必要だとし、反対派は、LGBTQへの支援の必要性は感じるものの、隔離することでますます社会から孤立してしまうのではないか、むしろ一般高校の中で LGBTQに対する理解を増やすべきなのではないかと説く。

もちろん自らのコミュニティで居場所を見つけられるのが一番よい。しかし、カナダでも学校のいじめは深刻な問題である。昨年は2人の学生がいじめが 原因で自殺したが、そのうちの一人はがゲイということが原因であった。いじめにあった子どもに、どのような選択肢を与えればよかったのだろうか。(オンタ リオ州ではこれを受けて「反いじめ法」が今年6月に成立した。)

同様の議論を経て開校されたばかりのアフリカ系を中心とする高校(アフリセントリック・ハイスクール)では、今年の新入生は6人に過ぎないという。 実際にLGBTQの高校が設立された場合に、はたして何人の学生を集めることができるのかも心配される。さらに、この動きが隔離政策を促し、宗教別の高校 設立の機運が高まる心配もある。

9月の集会は、正式に提案されるまでにはまだ検討が必要だとされ、すぐには実現化される見通しはないようだ。しかし、20歳の若者の提案を真摯に議論しようという機運がトロントにはある。この議論の行く末を見守りたい。

(追記)その後の話し合いで、この件はいったん白紙になったとのことだ。(2012年10月末)

サンダース宮松敬子さん著『カナダのセクシュアル・マイノリティたち~人権を求めつづけて』

* トライアングル・プログラムについては、当サイトGroup of 8の呼びかけ人であるサンダース宮松敬子さんが書かれた『カナダのセクシュアル・マイノリティたち~人権を求めつづけて~』(教育史料出版会)に詳しいので、そちらの購読をお勧めする。

 

 

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