性的マイノリティの可視性 ープライドパレードから見た、トロント、ニューヨーク、そして東京 by 佐々木掌子

トロントで見かけたレインボー車椅子

トロントで見かけたレインボー車椅子

時にLGBT(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender)※は、遠いイメージや、特別なイメージを抱かれる。しかし実際はどの学校にも職場にも必ずいる。確かに規模が小さければいないこともあるかもしれないが、数十人規模なら必ずいる。銀行員にも、工事作業員にも、客室乗務員にも、農業者にも、何の職種であろうといる。

ただ、その事実を実感できないのはいた仕方のないことなのだ、と、2011年トロント到着2ヵ月後のプライドウィークのとき、そう思った。

プライドウィークとは、さまざまな性的マイノリティを祝う6月下旬の10日間のことであり、その週は街の至る所でイベントが繰り広げられる。そして最終日には、ダウンタウンの目抜き通りでパレードが開催される。トロント市最大の観光財源の一つであり、120万人以上が集う一大イベントだ。

王立オンタリオ博物館が大きくレインボーフラッグを掲げる

日本でも、性の多様性の祭典として、東京や大阪、札幌などの大都市圏ではパレードが開かれている。東京については、一昨年は4500人以上の参加があったという。去年と今年は開催が見送られたが、今年は復活を願う人たちにより急遽開催され、600人ほどの参加があったとのこと。

一昨年と今年の両方に参加をした私は、いったい日本のパレードはNYやトロントのような北米のものと何が違うのだろうかと考えたが、「街が祝福しているか」が一つ挙げられると感じた。

カナダのメガバンク、カナダ帝国商業銀行のディスプレイ

プライドウィークにはトロントの街がレインボーに染まる。

トロント市庁舎、王立オンタリオ博物館といった公的機関はもちろんのこと、大手銀行や大型ショッピングモールなど街の中核を担う商業施設、マクドナルドやサーティーワンアイスクリームなどメジャーなファストフードチェーンや個人レストラン、個人の邸宅やマンションなど、街中にレインボーフラッグが掲げられる。街全体が性的マイノリティを祝うのである。

当日もあまたの人々がダウンタウンのヤング通りに集まり、パレードに参加する。「素っ裸で歩いている人がいる」と、とかく人目を引くことばかりが話題になるが、実際はさまざまなバックグラウンドを持った人々が練り歩いている。

大型ショッピングモール、イートンセンターの正面玄関のディスプレイ

大型ショッピングモール、イートンセンターの正面玄関のディスプレイ

人種の多様性の街トロントらしく、ヨーロッパ系、アジア系、オセアニア系、アフリカ系などなど、さまざまな民族のフロートは圧巻だ。

食品会社や製薬会社、銀行といった企業は、格好の宣伝の機会と捉え、積極的にLGBTに好意的であることをアピールする。軍隊、警察、市議会、教育委員会といった公的機関もLGBTを祝う。政治家やNGO、あるいはLGBTの子を持つ親の会のような民間団体は、プラカードを掲げて政治的なメッセージを発する。

パレードに参加するカナダ軍のフロート

パレードに参加するカナダ軍のフロート

もちろん、お祭りだからといつも以上に着飾ったドラァグクイーンや、肉体美を競う半裸の男性たちもいる。硬軟取り混ぜたバライエティの富んだ面々が練り歩くことこそ、このパレードの深さであり魅力だ。そして、見知らぬ人同士がすれ違いざま“Happy Pride!!”と声を掛け合う。

だが、トロント市民にも性的マイノリティに肯定的な人から否定的な人までさまざまな温度差がある。否定的な人の中には、パレードの存在すら苦々しく思う人もいる。しかし、「トロントにはプライドパレードというものがある」ということを知らないトロント市民は少ないだろう。そこが圧倒的に日本と異なる点だ。

レインボーに輝くNYのエンパイア・ステート・ビルディング

レインボーに輝くNYのエンパイア・ステート・ビルディング

トロントでのパレードの前週には、NYでもパレードが開催された。トロントからNYまでは飛行機で1時間ほど。一週ずつずれて開催されるので、NYを皮切りに、トロント、そしてモントリオールと「パレードはしご」も可能だ。

NYでは、エンパイア・ステート・ビルディングも、パレード前日にはレインボーに輝く。五番街で行われるため、トロントのヤング通りよりも道幅が広く、そして練り歩く距離もずっと長い。参加するフロートの数が多いので、正午から始まり4時を過ぎてもまだ終わらない。現在では世界各国で開催されているプライドパレードだが、きっかけとなったのはNYでの事件だ。集った人々は190万人に達したとのこと。さすがNYである。

今年の8月、銀座通りで行われたロンドン五輪メダリストのパレードをテレビで見て、「これがLGBTのパレードだったら」と思わずにいられなかった。報道によると50万人が集ったという。日本の街が、日本の人が、LGBTを祝福する未来図をどのようにすれば描けるだろう。

同性結婚支持者のオバマ大統領に対し、「NYはオバマを誇りに思う」と掲げる支援者

同性結婚支持者のオバマ大統領に対し、「NYはオバマを誇りに思う」と掲げる支援者

※「LGBT」と割愛してしまったが、トロントでは、さらなる性的マイノリティとその支援者や同盟者も包括した「LGBTTIQQ2SA(Lesbian, Gay,
Bisexual, Transsexual, Transgender, Intersex, Queer, Questioning, 2-Spirited
and Allies)」の表記が使用されることもある。

 

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