2012年秋のトロント国際映画祭(TIFF)の思い出 by高畠晶 (2013年2月)
去年のトロント国際映画祭(TIFF)で、4か月の契約ではあるが初めて仕事を頂いた。Asian Programming Associateという肩書で、映画祭のプログラミングとは要するに映画の選考を行うことである。上司であるアジア映画のプログラマーはローマ在住のイタリア人女性である。「アジア映画なのになぜイタリア人?」とよく聞かれるが、実は彼女は中国語(北京語)がペラペラで『ラスト・エンペラー』の時はベルトルッチ監督の通訳をしたそうだ。もちろん中国映画だけではなく、日本や韓国などアジア映画にはとても造詣が深い。
仕事の内容としては、映画祭前は週に30本というノルマでDVDを観て、面白い映画があればプログラミングのチームに報告する。2か月くらい毎日5-6本の作品を観てレポートを書くという日々が続き、眼精疲労と運動不足に悩まされたが、まだ劇場で公開される前の気になる映画なども観る機会があったので、そういう時は少し得した気分になった。作品が決まった後は、カタログに記載される紹介文を書いたり、招待される監督や俳優側とのやりとりをしたり、上映スケジュールなどの確認を行ったりで、かなり忙しかった。特に英語で文章を書くことに慣れていない私にとっては、作品紹介文を書くのには苦労した。
去年は日本人監督も多く招待され、『鍵泥棒のメソッド』の内田けんじ監督、『夢売るふたり』の西川美和監督、『ふがいない僕は空を見た』のタナダユキ監督、『希望の国』の園子温監督など多くの日本人監督が参加されたほか、『テルマエ・ロマエ』がGALA上映となり主演の阿部寛さん、上戸彩さんの二人はレッドカーペットを歩いた。通常の上映だと招待されるのは基本監督のみだが、GALAの場合は主演俳優も招待されることが多く、また会場もRoy Thomson Hallでレッドカーペットが敷いてある。ブラッド・ピットなどのハリウッドの俳優たちが参加することが多いため、GALA上映日には常に会場の周りで有名人を一目見ようと大勢のファンが集まることが多い。ちなみに『テルマエ・ロマエ』の上映時も大勢の日本人やカナダ人が集まってくれていた。ところで、このお二人のインタビューの通訳をさせていただく機会があったのだが、上戸さんはスタイルが良く、美しいのに、気さくに話しかけていただき感動した。また阿部さんはとても背が高くステキで、真面目そうな方との印象を受けた。
また、西川美和監督もタナダユキ監督も才色兼備という言葉がぴったりの美人で、素敵な女性だった。その上、映画も評判が良く、日本にも才能溢れる女性映画監督がいると思うと誇らしい気持ちになる。是非今後とも面白い映画を撮り続けていただき、トロント国際映画祭に戻ってきていただきたいものである。
9月6日に映画祭が始まってからは、各上映前には必ず舞台挨拶があり、上映後には監督や俳優がいらっしゃる場合、Q&Aをしなければいけないので、上司と手分けをして行った。初めての舞台挨拶やQ&Aはとても緊張し、声が震えそうになったが、フェスティバルも後半になると段々慣れてきた。プログラマーによっては、人前で話すのがとても上手な人もいて、観客の笑いを取ったりしていたので、私も早くそうなりたいものである。
また私事なのだが、トロント国際映画祭期間中は臨月で、「映画祭が終わるまでは産まれちゃだめよ~」とお腹の子に語りかけながら働いていた。忙しく動き回っている方が私も出産のことばかり考えずに済んだし、運動不足の解消にもなったと思う。10月に無事子供が産まれたのだが、今年はTIFFも含めて仕事の復帰が課題なので、いかにして子供を預けながら仕事が出来るか模索中である。