取締役に女性を!カナダ的アプローチ by 斎藤文栄 (2013年6月)
先日、オンタリオ州の女性問題担当大臣が、トロント証券取引所に上場している会社を対象に、企業における女性の昇進を促すため努力目標を設定するようなルール作りを考えていることを明らかにしたと5月28日付けの全国紙グローブ・アンド・メールが伝えた。(*1)トロント証券取引所に上場している会社というと、カナダのほとんどの大企業が影響を受けることになる。
一見、男女平等が進んでいるように見えるカナダでも、企業における女性取締役の数は10.3%に過ぎない。女性取締役の問題に取り組んでいる国際的なNPOであるCatalystのまとめた2011年の統計によれば(*2)、世界で一番取締役に女性が多いのはノルウェーで40.1%、続いてスウェーデンが27.3%、フィンランド24.5%。ジェンダー平等が進んでいる北欧はさすがに強い。ノルウェーで女性の取締役が飛躍的に増えたのは、一律に一定の女性の割合を定めたQuota(割り当て)制が導入され、目標に達しない企業は解散させられるという厳格な適用を始めてからである。Quota制は、ノルウェー、スペイン、フランスなどで導入されてきたが、EUでも真剣に検討されている。
しかしオンタリオ政府が、上場企業の規制権限を持つオンタリオ証券委員会と話し合っているのは、「comply or explain(遵守せよ、さもなくば説明せよ)」というアプローチである。Comply or explain とはコーポレート・ガバナンスではよく知られている用語なのだが、政府が強制するよりも企業の自主的な取組に任せ、評価は市場に任せるというやり方である。今回オンタリオ州政府が考えているのは、女性取締役を増やすために、「各企業は数値目標を含むダイバーシティ政策を公表し、毎年成果を発表すること、さもなくばなぜ目標を設定しないのか説明せよ」というものであるという。
カナダよりも一足早く取組を始めている英国政府も、今のところQuota 制の導入は考えていないようだ。2011年2月にDavies卿が議会で発表した女性取締役に関する報告書(「Davies Report」と呼ばれている)では、当時、欧州委員会で導入が検討されていたQuota制ではなく、ロンドン株式市場に上場されているFTSE350社(*3)に対しては女性取締役の目標数を設定すること、かつFTSE 100社に対して2015年までに女性取締役の割合を最低限25%まで増やすことを提言するという努力目標の設定だけに留まった。Comply or explainアプローチである。この提言を受け、企業が努力した結果、2年間で約40%も女性取締役が増えたという。(*4)英国では自主的規範といえども企業はまじめに取り組むため、法律による規制がなくともかなりの成果を挙げることができるようだ。カナダでもこのように効果が出るかどうか。
翻って日本はどうか。日本における女性取締役の数は、最新(平成24年度版)の男女共同参画白書によれば、民間企業の部長相当職で5.1%。取締役の数値は白書には掲載されていない。今年に入ってソニーやパナソニック、三菱UFJといった大手企業が「初」の女性取締役を設けたことが大きな経済ニュースになるくらいである。上場企業における女性取締役の数など恥ずかしくて公の統計には出せないというのが日本の実情であろう。ちなみにCatalyst のまとめでは日本における女性取締役は1.1%という。
Comply or explain アプローチをとるのか、Quota 制をとるのか。日本では本格的な議論の始まる気配すら見えない。女性の活用が進まない日本企業は、世界のビジネスのトレンドから既に取り残されていっているのではないか。
(*1)記事はこちらを参照
http://www.theglobeandmail.com/report-on-business/new-rules-aim-for-equality-in-ontarios-corporate-boardrooms/article12184584/
(*2)Catalystのウェブサイト http://www.catalyst.org/knowledge/women-boards
(*3)ロンドン証券市場に上場されている企業のうち時価総額上位350社のこと。FTSE100社は時価総額上位100社を指す。
(*4)2013年Davies Report による。https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/182602/bis-13-p135-women-on-boards-2013.pdf