トロント日本映画祭2013の開催にあたって by 高畠晶 (2013年8月)
今年で2回目のトロント日本映画祭が6月13日から28日にかけて開催された。オープニングの『天地明察』を皮切りに、日本から監督が参加した『桐島、部活辞めるってよ』まで合計18作品を上映したのだが、去年と同様、CoProgrammerとして選定に関わった。また、パンフレットの原稿や、トロントの日本語フリーペーパーであるBitsやTorjaへのPR活動やプロモーションも行った。
作品選びは館長のJames Heron氏と共同で行ったのだが、今年の始めに私が日本にいたため、彼の来日に合わせて年始に一緒に東京に行き、東映やワーナーブラザーズなど映画会社を訪れて作品の紹介をして頂いたり、上映したい作品の出品交渉を行った。まだ自分の赤ちゃんが生まれて3ヶ月未満だったので、母親にお願いして日帰りで東京出張に行ったのだが、母が「30数年ぶりの赤ちゃんのお世話に緊張して怖いから一人で面倒を見るのは無理!」と言い張ったので、結局私の幼馴染みの看護婦さんがたまたまお休みだったため、彼女に家に来てもらってベビーシットをしてもらったのであった。配給会社との打ち合わせが終わった後、新幹線の時間まで帝国ホテルのバーでお疲れ会を行い、映画祭の成功を祝ってカクテルで乾杯した。授乳中だったので普段は飲んでいなかったのだが、出張のために沢山事前に搾乳して冷蔵してあったため、この日ばかりは自分へのご褒美とばかりに久々のお酒を楽しんだ。ついでに帰りの新幹線の中でもビールを1缶空けてしまった。
映画祭のオープニングセレモニーではお寿司やお酒が振る舞われ、『おくりびと』でオスカーを受賞した滝田洋二郎監督の『天地明察』は満席御礼でスタートした。今年の映画祭の特徴は滝田監督に始まり、『東京家族』の山田洋次監督、残念ながら今年交通事故で亡くなられたため遺作となってしまった『千年の愉楽』の若松孝二監督、『Shall weダンス?』の役所広司と草刈民代が共演した『終の信託』の周防正行監督、『この空の花 –長岡花火物語』の大林宣彦監督、『黄金を抱いて翔べ』の井筒和幸監督など、日本映画界の巨匠やベテラン監督による作品が数多く揃ったことだ。特に私の一押しであった作品は当時御年74歳の大林監督が手がけた『この空の花 –長岡花火物語』である。花火大会が毎年8月に開催される新潟県長岡市を舞台に、戦争や災害など数々の苦難を乗り越えてきた長岡の人々の平和に対する願いと東日本大震災への復興への希望を描いたファンタジー映画なのだが、160分という長さを感じさせない莫大な情報量とパワーに溢れたワンダーな超傑作なのである。そして反戦への思い、平和への願い、そして震災の復興への想いもぎっしり詰まっているのである。本当にとても面白い映画なので、見逃した方は是非DVDで観て頂きたい。また、トロン
トのお母さん達の熱烈な要望に応えて上映が実現したドキュメンタリー映画『うまれる』も、子連れOKの異例の上映会で多くのファミリーに来て頂いた。トロント日本映画祭では観客の投票により最も評価を集めた作品を小林アワード(観客賞)として選出しているのだが、今年の観客賞は『うまれる』が受賞した。
クロージング映画の『桐島、部活やめるってよ』は日本ではネット上で様々な解釈や論争が「桐島現象」を巻き起こし、口コミによるロングラン大ヒットを記録した作品で、2013年度の日本アカデミー賞では最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀編集賞を受賞した。その吉田大八監督が日本から映画祭に参加されたのだ!とても気さくな監督で、Q&Aの際にはカナダの学校の部活の様子を観客に逆質問するなど、お茶目なところもあったのだが、上映後会場の外では2時間以上も観客の質問や写真撮影に応えて下さった。「今まで行った映画祭の中で日系文化会館の観客が一番熱かった」と仰っていたのだが、確かに熱心に 質問をする観客が多く、「桐島に関する答えは各自の解釈に任せます」という監督の返答がトロントの観客の間でも桐島現象を引き起こしたのであった。
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