日本のポップカルチャー情報をアップデート!by 広瀬直子

作家の村上春樹さんが以前、日本のカルチャーを「文化的焼き畑農業」と形容していたが、私は、最近「焼かれた畑」を見る機会があった。

私は語学書を書いていて、『日本のことを1分間英語で話してみる』(KADOKAWA中経出版)という本を2008年に出版したのだが、去年、その文庫版を出してもらうことになって、2013年版に内容をアップデートして出版したのだ。(タイトルは『1分間英語で日本のことを話す』に変更)

宣伝になって恐縮だが、この本は「歌舞伎」「みそ汁」「漫才」といった日本独自のトピックをそれぞれ英語の約100語、読んで1分間程度の簡単な英語で外国人に説明する趣旨のものである。

たとえば、「歌舞伎」のセクションの最初の段落はこんな具合:

見出し:It’s a colorful, dynamic theater(派手でダイナミックな舞台)

Kabuki is a form of classical Japanese theater. It is a spectacle of action, song, and dance. It uses many tricks such as a revolving stage and a trapdoor…

(歌舞伎は日本の古典舞台です。演技、歌、舞踊のスペクタクルです。回り舞台やせりなどさまざまなトリックを用います。)

このセクションは、2013年に新しく編集するにあたって、訂正するところはなかった。能や文楽を説明した文章ももちろん、時代に合わせて修正する必要はなかった。いずれの演劇芸術も何百年もの年月に耐えてきただけの普遍性な価値を持つからだ。

では、2008年には登場したものの、2013年には焼畑式に消されたトピックとは?そしてその代わりとは?

まず、駅の自動改札機(automatic ticket gates)というセクションが、ICカード(IC passenger cards)となった。なるほど、私のような海外在住日本人は、最近日本に一時帰国する際、いちいち券売機の上の地図で値段を確かめ、券を買い、その小さな紙切れを大事にポケットに入れてもって歩いているが、今はこんなことをしている人は珍しい。しかし一時滞在者にとってICカードの購入は、残額を残したまま日本を去ることになって、もったいないことが多い。

次に「ギャル」という大見出しが「AKB48」に変わった。小見出しは  It’s an all-girl idol group. (女の子だけのアイドルグループです)。本文にはThe group is marketed as the “accessible “ idol group that fans can casually see and even shake hands with… They are popular among male fans and children.(ファンが日常的に見て握手さえできる「身近なアイドル」としてマーケティングされています。男性ファンと子どもに人気です。)と書いた。テレビのネットワークもグローバル化している今、AKB48を見て「この子どもたちは何だ?」と思う外国人は多いので、こういう説明も必要であろう、と編集者と私は読んだのだ。外国人と英語で話す機会のある日本人には便利なはずだと思う。

下線のamong male fans(男性ファン)というところはけっこうキーワードで、ええ年のおっさんが真剣にこの子どものような女の子たちを見て目をハートマークにしている、という感じ。日本人として恥ずかしくても、本当のことだから仕方がない。

という私も「ええおばはん」のくせにジャニーズが好きだった。そういえば。しかし、ジャニーズ好きのおばさんは、ロリコンのおっさんほど不愉快でも社会的な害を引き起こすこともない、と思うのは、私の身勝手と開き直りか?

ジャニーズといえば、実は同著の中で、自分でアップデートしておきながら、寂寥感にさいなまれ関連トピックがひとつあった。「Jポップ」のセクションで、「SMAP」を「嵐」に変えたことだ。ジャニーズのグループの説明を英語でするには boy bands (男の子のアイドルグループ。英語圏ではワン・ダイレクションなどがこれにあたる)が手っ取り早い。しかし・・・SMAPを今も「boy」と呼ぶにはどうしても抵抗があった。

「かつてはAKB48みたいに若い女の子だった私も、今は中年のおばさんだもんな。SMAPだって boy じゃなくなるよね・・・」としみじみと考えた。そして身を切る思いでテキストのSMAP部分をハイライトして「あ・ら・し」とタイプして文を更新した。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。