同人誌と夏コミ by 金辺貴矢

今年も無事、夏コミも終わり一段落する季節になりました。皆さん「夏コミ」ってご存知ですか?

夏コミとは「コミックマーケット86(年2回夏冬開催で今夏86回目を迎えた)」、略して「夏コミ」と称されている。今年は8月15日(金)~17日(日)の3日間開催され、いまでは世界最大の同人誌即売会として世界中で知られる存在になっている。開催場所は東京国際展示場(通称ビッグサイト)で、今年は3日間で合計55万人の来場者が訪れた。

我々、カナダに住む人間にとって馴染みの薄い「同人誌と夏コミ」とは何かを今回紹介したいと思う。

海外の方の持つ日本文化は、すしやラーメン等の食に関すること以外では漫画やアニメといったイメージが定着している。現在doujinshiはsushi, manga, animeと同様国際語として使用されている。

しかし同人誌とは何かを理解していない日本人も多いのが実情で、古い世代の人なら同人誌とは、尾崎紅葉、夏目漱石など純文学の共同自費出版というイメージを持たれるかもしれない。現代の日本において同人誌とは自主出版の漫画が大勢を占めている。では自主出版された漫画とは何か、「出版社を通さず出版コード、規制、著作権などから縛られない自由な創作活動」を指す。

明治の同人誌と違い現代の同人誌ではサブカルチャー的な面が濃く、そのほとんどがオタク文化に属する。それでは今の同人誌作家はなぜ同人活動をするのか。それは明治の先人と同じく自分と趣味、興味を同じくする仲間と作品を仕上げ、同人同士での交流が目的の人が大多数。それでも中には一冊売れれば満足いう人も居れば、プロを目指す人も居る。

同人誌だけで生計を立てている人も昨今増えている。ここで同人誌出身の有名プロ作家を何人か紹介する。2085948a0b0da2a649e9cff2b83eb30409a26d4c1376110772

“よつばと!”のあずまきよひこ、カナダでもTVアニメが放送され有名になったCLAMP、“D.Gray-man”の星野 桂、“3月のライオン”で知られる羽海野チカ、江戸時代の女性将軍を扱った“大奥”でテレビドラマにもなった、よしながふみ。これらの作家は、同人誌からスタートし今では世界的に知られるマンガ家となっている。

制作者、読者が自由に交流出来る場が同人誌即売会である。大好きな作者と出会え、会話ができ、スケブ(スケッチブック)に絵も描いてもらえる、それらが可能な場が即売会であり、一期一会の特殊な環境である。

「日本人には想像力が無い」「自分の考えを相手へ伝える事が不得意」とよく言われるが、日本の同人誌を読む限り全くの見当違いだと分かる。現在世界的に認められているハリウッド映画、出版されている本などあまりにありきたりで、安全なストーリーに囚らわれすぎ、楽しめないと思う人が多いのではないだろうか。

同人誌には今までどの物語にも出てこなかった様な手法がちりばめられ、日本文化独特の間接的な表現で,二次的な価値観を発見できる。これはすばらしい想像力の表現であり、しかもそれを直裁に他へ伝えないという独自な物だ。

ここには「浮世絵」等で蓄積された“絵”で物事を表現するという手法が用いられており、物語が展開されていく。これは読者に作者の考えを伝える確かな技法であり、誇るべき日本の文化である。

少し哲学的になるがnews1221_comike_sub3 (1)、無政府論者、絶対資本主義者などが過去に唱えた完璧な規制の無い世界が同人誌即売会では可能な限り現実となっている。芸術家(作者)として規制の無い、自分が本当に作りたいものが出来る人が世界に何人いるだろうか?

インターネットなどの無料媒体であれば可能であるが、やはり商品としてどれだけ自分の作品が評価されるのか、を確認したい人には同人誌即売会ほど適切な場所は無い。芸術(自由)と商売(現実)とのバランスがこれほど取れた空間は世界中でここだけであろう。このような特殊な空間に人々が集まり、本当の意味で自己を認識し、他人を理解する。

この場でしか目にする事が出来ない本を作り、売って、買える場所が日本に存在するものの、それを知っている日本人がいかに少ないことか!

政府はクールジャパンを海外で売り込んでいるが、それらがどのように生まれ、誰に支えられているのか。この事実を認識するところから日本を真に知る事が出来るのではないだろうか。

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