青少年野球事情~日本とカナダの違い:高校野球の投球数:Baseball Mom 繁盛記(3)by 鈴木典子

今年の8月末、日本で高校軟式野球大会の準決勝で、4日間で延長50回という記録が発生した。両校とも投手は完投し、それぞれ709球と689球を投げている。優勝した中京高校の投手は、準決勝の前日の準々決勝と、準決勝が終了した2時間半後に実施された決勝を含め(5日連投)、7日間75回で約1000球を投げている。

日本の高校野球の投球数の多さについては、2013年4月の選抜高校硬式野球大会で、愛媛県済美高校1年の安楽投手が2回戦で232球投げた時点で米国のメディア(ベースボール・アメリカ)が取り上げ、話題になった。安楽選手はその大会で4試合772球を投げている。

noriko-pitcher米国メディアに「クレイジー」と評された投球数に対して、元プロ野球巨人軍の名投手桑田氏や現役メジャーリーガー・ダルビッシュ選手などが導入を提案したのが、ピッチカウント(投球数制限)である。北米では1人の投手が試合で投げる投球数が厳しく制限されており(注1)、メジャーの試合でも先発投手は100球で交代というのが多くなっている。

こちらに来て息子たちが地元の野球チームに入って以来、非常に厳しい投球数制限にとても感銘を受けた。オンタリオ州の青少年野球は、地区代表の野球チームでプレーするのだが、リーグ戦による試合を2か月半の間に40試合程度行い、その結果による順位をもとに決勝大会(プレーオフ)の組み合わせが決められる。プレーオフは地区、市、州と続く(注2)。こうした公式戦すべてにおいて、カナダの野球連盟が定めた投球数制限がある。年齢別に定められた1試合の投球数を超えたら翌日丸1日登板できない。また、いったん降板した選手は別のポジションでプレーできるが、同一試合での再登板は禁じられている。投球数のカウントを間違えて優勝決定戦で失格になったチームさえあるほど、厳しく適用される。

北米の野球の特徴は、試合と試合の間隔が短く試合数が多いということだ。練習より多くの実戦を重ね、1つ1つの敗戦や引分けも最終成績に大きな影響はない。1人の投手では全試合をこなすことはできず投手は野手・捕手を兼ねることが多い。もちろんプレーオフの重要な試合で頼るべきエースピッチャーがいるが、投げ継いでいく複数の投手、得点する打者、守備で支える野手のバランスがとれ、シーズンを通して高い勝率を上げられるチームが強いチームなのである。この条件下では、1人の選手の負担を軽減するために、投球制限は1つの有効な手段だと言える。

ただし、投球制限をしたから故障が減ったかというと、必ずしもそうではない。投球数だけではなく、球速・球種・フォーム、大勝している試合で楽に投げるか、僅差の緊張した試合で高いストレスの下で投げるかによっても違う。また、故障を避けるには疲労度だけではなく回復度も重要だが、回復度を測定する方法はまだ確立されていない。登板間隔を広くする方が有効だという意見もある。

一方、日本の高校野球は、プロ、米国のいずれとも違うトーナメント形式という特異なシステムの中で行われている。1度負ければ今までの苦労はすべて終わり、高校での野球以外に野球をやる道が皆無に近い日本では、その負けは野球人生が終わることでもあり得る。野球を続けるためには勝ち続けなくてはならない。日本の高校野球選手は、美しいフォームと投げ込み・走り込みなどのトレーニングで創られた身体と、毎日何時間も1年通して続けられる厳しい練習と上下関係や規律などを通して作られた強い精神力とにより、常に後がない状況で勝利を目指しているのだ。

「投球数制限論争」で野球経験者を含め多くの人がいうことは、「野球に青春をかけている選手に制限をかけるなど論外」「プロに進むのではない多くの選手にとってそこで燃え尽きても後悔しない」「故障を繰り返しながら強い体と心が創られる、故障するのはまだ鍛え方が足りない」。チームメイトはエースに命運を託し「エースが投げて負けたなら仕方ない」と言える。エースはたとえ投げ続けることで一生野球ができなくなろうとも、投げるのをやめて後悔するよりは燃え尽きたいと願う。監督も選手の気持ちをわが子のように理解できる人であればあるほど、投げ続けさせたいと思うだろう。

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青春をかけ、そこで燃え尽きてもいいと思えるだけのものを持っている若者とは、なんと素晴らしい存在だろう。厳しくつらい練習を何年も重ねて来たことは何物にも代えがたい自信と精神力になり、燃え尽きるまでやりぬく努力はほかの誰にも真似できない貴重な経験だ。心から敬服し尊敬するし、賞賛したい。

しかし、である。高校生はまだ「未成年」だ。3年生になれば、進学・就職など将来の選択をする時期でもあり、将来野球を続けられなくなるかもしれないことも含めて自分で決断・選択し、その選択に責任を持って後悔しないこともできるだろう。ただし、無理や故障についての正確な知識を与え、正しいフォームや体つくりを含めた指導をするのが正しい指導者や大人の責任だし、低学年のうちや、試合の最中のアドレナリンが出まくっていて痛みも無理も気づかない体の状態で「投げ続けたいと言った」から本人の希望に任せた、というのは、私には正しい大人の判断だとは思えない。

ちょうどこの原稿を書いている時にアップされた、上述の広岡晃氏のブログを引用して稿を閉じることとする。

「野球の記録で話したい:2014/9/13 「ここで潰れても構わない」は暴論である|アマチュア野球」

http://baseballstats2011.jp/search?q=%E8%BB%9F%E5%BC%8F%E9%87%8E%E7%90%83%E3%80%80%E6%BA%96%E6%B1%BA%E5%8B%9D

注1:ASMI(アメリカスポーツ医学協会)などの調査により、投球数が多い場合の故障率が上昇することは一定の結果が出ている。米国のリトルリーグが7歳~18歳の全選手に投球数制限を採用したのが2007年で2014年にもガイドラインを発行している。米国は大学も100球という制限があるようだ。

http://mjlittleleague.pointstreaksites.com/files/uploaded_documents/1859/Pitch_Count_Publication.pdf#search=%27ASMI+little+league%27

オンタリオ州野球連盟の定めた投球制限

http://www.pmba.ca/pdf/PitchCount.pdf#search=%27Baseball+ontario+pitch+count%27

注2:地区のリーグは年齢別に複数のチームが加盟し、ホームとアウェイ均等で同一試合数の総当たり戦を実施。その結果の勝率、得失点差などで順位が決まり、プレーオフの組み合わせが決まる。

そのほか各地で実施されるトーナメント(大会)もほとんどが2~6チームを「プール」と呼ばれるブロックに分けて総当たりの予選リーグ(「ラウンド・ロビン」と言われる)を行った後、各プールの上位1~2チームによる決勝プレーオフという形式。トーナメントは金曜夕方から週末の3日間で多いときは7試合する場合もあり、決勝日には3試合することも多い。

プレーオフはダブル・ノックアウト方式という、1回負けたら敗者ブロックに回りそちらで勝ち抜けば決勝まで上がれる方式を採用していることが多い。個別のチームが参加するのは州大会までで、全国大会は各州の代表オールスターチーム同士が対戦する。

参考:

高校野球の投球数と投球制限に関する広尾晃氏のブログ「野球の記録で話したい」2013/4/6 投球制限論争の根底にあるもの

http://baseballstats2011.jp/archives/26428469.html#more

高校野球の投球数と投球数制限に関する豊浦彰太郎氏のブログ「Baseball Spoken Here」2013/3/30 MLB流投球制限への疑問―投手は投げ込んで創られるものなんや!

http://blog.livedoor.jp/toyorashotaro/archives/27533930.html

米国のメディアが取り上げた安楽投手の投球数と日本の高校野球の「文化」についての記事

Baseball America 2013/3/29 Tomohiro Anraku, 16-Year-Old Japanese Phenom, throws 232 pitches In One Game

http://www.baseballamerica.com/international/tomohiro-anraku-16-year-old-japanese-phenom-throws-232-pitches-in-tournament-game/

Yahoo Sports 2013/4/4 The pitch-count problem: How cultural convictions are ruining Japanese pitchers

http://sports.yahoo.com/news/the-pitch-count-problem–how-cultural-convictions-are-ruining-japanese-pitchers-012016897.html

ESPN When 772 pitches isn’t enough 2013/7/21

http://espn.go.com/mlb/story/_/id/9452014/pitcher-tomohiro-anraku-future-japanese-baseball-espn-magazine

軟式野球大会準決勝に対する海外の反応を伝えた記事

http://newsphere.jp/national/20140903-5/

上記大会に対する記事 Big League Stew 2014/8/31 4日間50回続いた日本の高校野球の試合

http://sports.yahoo.com/blogs/big-league-stew/japanese-high-school-game-spans-four-days-and-50-innings-171615112.html

ワシントンポストの記事

http://www.washingtonpost.com/blogs/early-lead/wp/2014/08/31/a-japanese-high-school-baseball-game-lasts-50-innings-over-four-days/

上記大会に関する松谷創一郎氏の記事 Yahooニュース2014/8/31「残酷ショー」としての高校野球(記事の中の一部の過激な表現や話題により“炎上”)

http://bylines.news.yahoo.co.jp/soichiromatsutani/20140831-00038729/

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