コトバとココロの微妙な関係
文・空野優子
先月半ば当サイトに掲載された嘉納ももさんの言語学習についての記事を読みながら、大人になってから母語以外の言語を習得するための条件について私も考えてみた。
嘉納さんの指摘するように、言葉を習得するのは、年齢に関係なく、生活に必須であることや、本人のやる気が大きく影響するのはその通りだと思う。
私の周りにも、発音がネイティブとは少し違っても(つまり大人になってから習得したと思われる場合でも)、コミュニケーション力やボキャブラリーの豊かさの点でとても流暢に英語を使う人はたくさんいる。
そして、環境と本人のやる気の二つに加えて、もう一つ、語学の習得に大きくかかわっていると思えるポイントがある。
それは、言葉を学んでいる本人が、自分の語学力を肯定的に評価していること。言い換えれば、自分の語学力にある程度自信を持っている、ということである。
自分はできる、と思っている人のほうが、自分の語学力を低く評価する人よりも、(たとえテストの点数が少々低くても、)すらすら話す傾向にあるという研究を読んだことがある。
実際、私の経験からも、自分の語学力に自信を持つことは、語学の上達の助けになるように思う。
私は大学留学時にはじめて第二言語(英語)で生活することになったのだが、当初、どこで仕入れた情報なのか、3か月くらいで耳が英語に慣れ、1年で大体話せるようになり、2年たったらぺらぺらになると思っていた。
今から思うとかなり無茶な期待だが、理想が高かった分、1年たっても「いつまでたっても話せない、、、」とマイナス思考になることが多かった。
留学生活2年が過ぎて、「日本語に比べればまだまだやけど、外国語なんやしこれくらい通じたらまあいいや」と前向きに思えるようなり、英語を使うのが割と楽になったのを覚えている。
それ以降、いろんな場面で英語を使うのに抵抗がなくなり、積極的になった分、上達も実感できるという好循環が始まったように思う。
自信をもってやれば結果がついてくる、というのは語学学習に限ったことではないが、特に大人になってから母語以外の言語を習得する場合、前向きに自己評価することはとても大切だと思う。
これは友人から聞いたことだが、例えば英語を話していて相手から聞き返されるたびに「自分の発音はダメなんだ」と思っている場合でも、実は発音の問題というよりも声が小さすぎて相手が聞き取れていなかったということもある。自信をもって大きな声で言い直せば、それだけで通じる可能性は高くなるというわけだ。
「私は英語が全くダメ」と口にする人は特に日本人に多いように思うが、私はほとんどの場合、事実というよりも心理的な問題だと思っている。
そもそも、たいていの日本人の場合、学校教育で英語の基礎は学んでいるので、「全然できない」ということはほとんどない。それでもそのように思うのは、「全くできない」のではなく「日本語と比べて全く思うように使えない」のではないだろうか。
これは外国語なのだから当然である。または非現実的な目標(たとえばネイティブ並みの英語を目指すなど)をたてるために、期待と現実とのギャップが大きすぎて、落ち込んでしまうということもある。
それより、「たくさん間違っても当たり前、それでもだいたい理解してもらえるから大丈夫」というちょっと都合のいいくらいの自信が、語学上達にはプラスになるのではないかと今になって思う。