カナダ横断の旅とそのお供
文・ケートリン・グリフィス
まだ携帯もインターネットも普及していなかった十数年前、私は友人と大学卒業祝いにNY旅行の計画を立てた。ところが、真剣に旅行プランを考えていくうちにニューヨーク3日間の旅が3週間のカナダ横断旅行へと変更してしまった。理由は単純な話で「カナダに住んでいるのだからカナダのことをもっと知ったほうが自分たちのためだろう」ということからだった。今、思い出しても、キャンプしながらトロントからBC州を往復した3週間は貴重な経験であり、楽しかった。時間がある人には是非体験してほしいと思う旅行である。
さて、5月の初旬トロントから西に向かって出発した私たちは、「この旅でカナダのことをもっと良く理解したい」との気持ちから、あえてカナダ人作家の本をお供として選んだ。そして、できるだけ、オンタリオ州横断のときはオンタリオ出身かオンタリオを題材にした本、マニトバ州ではマニトバ関係、という具合に本やAudio本を知り合いや図書館から借り受けた。
出発と同時に取り出したのはデニス・リーの詩集「Alligator Pie」。トロントではお馴染のヤング・ストリートやカサロマがでてきたりと、トロント出発の旅の幕開けにはもってこいの選択だった。古きトロントを想像させ、そして英語のリズミカルな言葉遊びが友達と私には楽しく、一緒に笑い、一緒に「これ、意味わからなーい」といいながらも気に入った詩を朗読したりした。今でも娘が風邪で寝込んでいる時などこの詩集を読み聞かせている。
さて、都市を抜けだし北へ北へとすすみスペリオル湖をまわりマニトバ州に向かっていた私たちは驚いた。噂には聞いていたが、オンタリオ州はじつに広かった。そして外の景色は永遠と木、岩、空。「もうガス欠でやばいよ!」と不安に感じ始めたころガソリンスタンドがある小さな村にたどり着く。満タンにした後、次の村までまたガスが無くなる直前まで走り続ける。そして外の景色は岩、木、空。でも美しい。そしてたまに姿を見せるスペリオル湖の優雅さは心を和ませてくれた。
ムースにも出会えた。初めて生で見る野生ムースの巨大さには口がぽっかり開いた。
さて、この延々と続いたオンタリオ州の北の旅ではマーガレット・アトウッドのThe Handmaid’s Tale(日本訳「侍女の物語」)が共をしてくれた。オンタリオ州在住の作家が多い中、誰のどの作品を選ぶか非常に悩んだのだが、この作品は当時アトウッドを代表していたし、読んでみたいと思っていた。確かにこの作品は大自然の中だとか、オンタリオ州とか関係なく堪能できる本なので選択ミスかと思う人もいるかもしれない。ところが、岩、木、空しかない景色を何時間も何日もかけてひたすら運転だけをしていた私たちは、この作品でなければ退屈をしていたかもしれない。作品の中のデストピアで繰り広げられるサスペンス、また女性とは?を問いかけてくれるこのストーリーで私たちは退屈どころか、チャプターごとに会話が弾み、自分たちがちょっと賢く思えてきたりしたものだった。
さて、オンタリオ州からやっとマニトバ州に入り、次の私達の選択本はマニトバ州出身のマーガレット・ロレンスのThe Stone Angel(日本訳「石の天使」)だった。とあるマニトバ州の町で暮らす年老いた芯の強い頑固な女性の回想話し。同じマニトバ州を横断しながらも、当時若い私たちにはこの本は重く途中であきらめてしまった。変わりに日本の昔話を私が友達に教え盛り上がった、特に「桃太郎」が何故か彼女のお気に入りで、今でも彼女はあの時教えた「桃太郎さん」の曲を口ずさんでいる時がある。
本だけでなく、車でカナダ横断へ旅立つのなら、是非聞いてほしいカナダ生まれの曲がある。バンドArrogant Wormsの「Canada is Really Big」(またオンタリオ州内では「Rocks and Trees」もお勧め)あとTom Cochraneの「Life is a Highway」。広大な景色とハイウェーを突き進みながら聞き、口ずさむと最高です。
さてマニトバ州以降の本の選択については、次の機会に書きたいと思う。