トルドー首相の華麗なる父親とその一族
文・広瀬直子

「トルドー首相はG20でロックスター並みの歓迎を受け、ISIS問題におけるカナダの役割について数々の質問のを受けた」と報じるCBCのオンラインニュース
今月4日、自由党党首のジャスティン・トルドー氏がカナダの第29代首相に就任した。43歳の若さで、アメリカのジョン F. ケネディーの就任時を彷彿とさせる、という人も多い。閣僚30人のうち半数に女性を任命するなど、早速カナダ政府に新風を吹き込んでいる。
同首相は11月中旬にトルコで開催されたG20のサミットに参加。早速、世界級サミットにデビューしたわけだが、同国では、女性ファンらに「ロックスター並みの」熱烈な歓迎を受けた、とCBC(カナダ国営放送局)は報じた。
カナダではトルドー首相本人はもとより、彼の父親の故ピエール・トルドー元首相、母親のマーガレットや、異母姉妹の母親であり自由党議員であるデボラ・コイン氏らも有名人だ。彼らの人生には華やかでスキャンダラスな要素もあり、これまでしばしばドラマになったり伝記が出版されてきた。
現首相も小さなころから有名で、筆者は、エリザベス女王を国家元首とするカナダには英国のウィリアム王子だけでなく、トルドー・ファミリーの長男であるジャスティンというふたりの「プリンス」がいるような印象を受けてきた。容姿端麗で育ちが良く、美しい英語を話し、ジャスティンにおいてはフランス語との完璧なバイリンガルであり、高級アイドルのような存在。日本の皇室の佳子さま人気のようなものか。

現首相の父親、故ピエール E. トルドー元首相。襟に赤いバラの花を付けるのが好きだった(写真はWikipediaより)
今のモントリオール国際空港の名になっている父親のピエール(第1任期1968~1979、第2:1980~1984)も在任時、「トルドーマニア」という言葉が流行するほどのファンベースを持っていた。
アメリカやオーストラリアに先駆けてカナダが多文化政策を敷いたのは、ピエールの首相時代である。また、法相時代の “There’s no place for the state in the bedrooms of the nation.”(国民の寝室に、国の出る幕はない)という発言も有名で、同性愛行為を犯罪とする当時の法律から同性愛者を擁護した。
ちなみに、トロント国際空港の名になっている故レスター B. ピアソン元首相(任期 は1963年~1968年)は法相時代のピエールの上司だった人で、国連平和維持活動をリードしてノーベル平和賞を受賞している。カナダが「平和で寛容で多様」な国であるという国際的なイメージは、概ね、ピアソン氏とピエールに由来しているといっても過言ではない。
ピエールはハンサムな上に、大変なインテリで英仏の完璧なバイリンガル、さらにヨーロッパに滞在したり世界を旅行したり、柔道で黒帯という国際的な経験も持っており、よって大いにモテたらしく、恋愛においても数々の浮名を流し、ハリウッド・スターのバーバラ・ストライセンドと一時期付き合っていたことが知られている。
現首相の母親で29歳年下のマーガレットとは現役の首相時代に秘密裡に結婚したものの、結局メディアに暴露された。ジャスティンを含む3人の男の子をもうけたが、マーガレットが首相の妻という激務から気分障害(いわゆる「躁鬱病」)を患った。そして結婚から6年で別居、13年後に離婚した。一族にはジャスティンの弟、ミッシェルがピエールの生前、98年に23歳でスキー中に雪崩に遭い、亡くなったとい悲劇も起こった。
ピエールはさらにひとりの女性を経た後、学者のデボラ・コイン氏と恋愛関係となり、娘を一人もうけた。コイン氏は政治家でもあり、2013年の自由党の党首選でジャスティンと争い、敗北を喫している。
もちろん、ピエールは女性関係が華やかだっただけではない。彼は優れた手腕を持つ政治家として歴史に残る実績を残した。彼の血を引くジャスティン現首相は果たして実質的な功績を残してくれるのか、カナダ人は期待と不安を持って見守っている。
(本記事ではトルドー姓の人物をファーストネームで呼びました)