東京とトロント、ここが違う
文・鈴木典子
トロントでの9年近い滞在に終止符を打って東京に戻ってから、4か月が過ぎた。日本での生活への再着陸は、それなりにうまくいっているつもりだが、まだ、くしゃみを聞くと、つい、Bless you!が出そうになる。東京に戻った当初は、いろいろな場面で、トロントと東京の大小様々な違いに気が付いた。よく言われる左側通行と右側通行の違いはその代表だろう。もちろん、東京とトロント、といっても、私が個人的に過ごしていた(いる)地域だけのことかもしれないが、もしかしたら、この違いが、トロントと東京の人の生活や考え方の違いを表しているのかもしれないと思い、整理してみた。
少し説明や感想を付け加えたい点がある。
まず、通行する側について。この記事を書くためにグーグルしてみたところ、道路交通法上の歩行者通路は右側なのに、実際は歩行者は左側通行が多いという記事が多く見つかった。その理由は、昔侍は左側に刀を差しており、ぶつからないように左を歩いたとか、左に心臓があるのでそちらを自然に守るような位置を歩くとか。
次に支払い方法。今回、電子マネーの種類が豊富なのに驚いた。交通系のスイカ、パスモ、通販系の楽天エディ、コンビニ系のポンタ、ナナコなどで、それぞれ電子マネーとして使う一方で、使用した金額に応じてポイントのようにたまる機能もあり、銀行口座を指定してオートチャージもポピュラー。
一方で、デビット、小切手は日常生活では全く使われていない。
クレジットカードも、かなり使われるようになっているが、請求・利用明細は来るものの、指定した銀行口座から自動的に振り替えられるので、いくら使っても気にならない。リボルビング払いやボーナス払いなどもあるので、負債がどんどん積みあがっていくことが、恐ろしい気がする。

↑東京式
2020年にオリンピック・パラリンピックを開催する国として恥ずかしく思うのが、駅や公共施設のエスカレーター、エレベーターの不足だ。主要な駅で、地下深くにホームがあり、出口も数多くある場合でも、上りエスカレーターのみで、下りのエスカレーターが駅に対して1か所とか無いところもある。昔から国際的な地下鉄六本木駅で、直接地上に出るエレベーターも下りエスカレーターもないのには驚いた。私が見つけられなかっただけならいいのだが、簡単に見つかるところに無いことは事実だろう。天下の渋谷駅も、いくつかの路線からハチ公前につながる出口は階段のままだった。比較的新しい地下深くにホームがある駅は、上り・下りエスカレーターやエレベーターが必須なので、作る時から設置されているが、古い駅は階段が前提として利用されてきていたので、後から追加するのはむずかしいのだろう。階段にレールを付設している駅が増えていることがせめてもの救いだ。

↑トロント式
道に段差があったり、店やレストランの入り口がスロープになっているところが少ない一方、公衆トイレやエスカレーターの入り口では、音声が流れて男子トイレは右側だの、上りエスカレーターの入り口ですだのを、視覚障碍者に知らせる。視覚障碍者で外出する人は多いけれど、車いすの人は比較して少ないのだろうか。
また、多くの改札ゲートが、出る方からも入るほうからも使えるので、どちらかの方向だけが混むということはないが、入ろうと思ったら出る人がどんどん続いて、なかなか入れない、ということも起こり得るし、出る人の流れと入る人の流れが、すべてのゲートに発生する。料金が距離によって違うので、入る時と出るときと両方ゲートでスキャンしなければならないのはやむをえないが、人の流れが一方通行になる方が、混雑を防げる気がする。トロントの地下鉄や施設では、ゲートが回転バーになっていて、逆走ができないのは流れを一方向にするのにはいいが、大荷物やペット、車いすが使えないのは不便だった記憶がある。
街にゴミ箱とポストが減ったのは、地下鉄サリン事件以来だろうか。ポイ捨てが増えそうだがそれをしないのは、日本人のいいところだ。トロントで、ゴミ箱があっても道や学校内にゴミを捨てても平気なところは、最後まで気になった。
トロントから戻ってきて、日本の生活や制度に批判的になっている自分に気づく。東京の現在は歴史的地理的条件によって出来上がったものなので、一概に悪いわけでも、簡単に変えられるものでもないが、国際的な都市として発展していくためには、外からの視点で見直していくことも、必要な気がする。
トロントと東京だけではなく、大阪、バンクーバーなどでも、違いの違いがあるだろう。いろいろな視点で見てみたいものだ。
*東京とトロントの気づいた違いをまとめたものはこちら↓