G7伊勢志摩サミット: NGO的視点から
文・斎藤文栄
8年振りに日本で行われたG7サミット。伊勢志摩はさぞや盛り上がったかといえば、そうでもない。メディアの関心事はもっぱらオバマ大統領の広島訪問で、G7そのものへの注目度は意外に低かった。終わってみれば、G7で何が決まったの?という疑問が残るばかりだ。ちなみにG7で議論された内容につきNGOが評価をしたところ、5段階評価で3を超える評価はなかった。
「G7首脳宣言に対するNGOの5段階評価」
http://www.huffingtonpost.jp/ugoku-ugokasu/g_7_b_10316946.html
地元、三重では盛り上がったかといえば、ホテルはG7関係者で押さえられ、街にお金を落としてくれる観光客が減った一方、交通規制が厳しく、早く終わって欲しいと嘆く人が結構いたようだ。。
G7の意義も薄れつつあるように感じるのは、NGO側の関心の低さからも見て取れる。例年サミットに参加し様々なパフォーマンスで貧困問題などをアピールしてきた国際NGOのオックスファムは、すでにG7から撤退を決意。今回のサミットにも姿が見えなかった。伊勢志摩には、海外からは、セーブ・ザ・チルドレン、ワールド・ビジョン、グローバル・シチズンなどの国際的大手NGOから数名ずつ参加していたにすぎない。国際的なNGOにとって、わざわざ日本に飛ぶほどの効果がサミットに見出せなくなってきているという現れだろう。

G7メディア・センター前で行われたNGOのパフォーマンス。去年国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)のキャッチフレーズ「Leave No One Behind(誰ひとり取り残さない)」を掲げている。
私は、今回、初めてNGOの一員としてサミットに参加した。私はこの1年半ほどジュネーブに拠点を置くThe Partnership for Maternal, Newborn & Child Health という団体の下で、女性や子どもの健康に関する啓発活動を行ってきたのだが、このG7でも成果文書にこれらの課題を盛り込んでもらおうと、メディア・センターに近いNGOセンターで記者会見を行い健康に関する課題をアピールしてきた。しかし、NGOセンターはメディア・センターからのアクセスも悪く、記者への周知も徹底されていなかったため、記者会見に参加する記者の数も限られ、現場ではあまり手応えが感じられなかったというのが正直な感想である。参加した他のNGOからも日本政府のNGOの対応に対して不満の声が聞こえてきた。明らかに8年前の洞爺湖サミットと比べてNGOに対する姿勢が後退しているという。
ただ伊勢志摩サミットは必ずしも負の側面ばかりではなく、良いこともあった。G7に先立ち四日市市で行われた「市民の伊勢志摩サミット」では、地元三重や名古屋で活動するNGOを中心に全国から500人ほどの市民が集まり、地方の抱える問題から海外そして地球規模の課題へと活発な議論が交わされた。市民レベルでは、地方と世界は繋がっていると確信する良い機会となったと思う。

四日市で開催された市民の伊勢志摩サミット
G7も、こうした市民の声を積極的に聞く場をもっと持つべきではないか。実際、G7で議論された内容には、テロ、世界経済だけでなく、日々の生活に関係する課題も多く含まれているのだから。
「G7伊勢志摩サミット成果文書」 http://www.g7iseshimasummit.go.jp/documents/summit.html
そして市民側も、G7を厳しく監視していく義務がある。このご時世、国際会議にはえらくお金がかかる。伊勢志摩サミットで象徴的なのは28億円かけて作られたメディア・センターだろう。取り壊しには更に3億かかると言われている。G7関連の予算総額は600億、そのうち警備費が340億という。 G7では何が議論されているのか、そこで議論する意味は何なのか、成果は上がっているのか、 私たちは厳しく監視しなければならない。

メディア・センター・アネックス。この建物に食堂や展示スペースが入っていた。
トロント大学にあるモンク・スクールには、G7リサーチ・グループがあるが、このグループのトップであるジョン・カートン氏の伊勢志摩サミットへの評価は、タイトルこそ「セキュリティ中心に成功」としているものの、個別課題の評価はかなり低い。
http://www.g8.utoronto.ca/evaluations/2016shima/kirton-shima.html
朝日新聞のインタビューでのカートン氏のサミットへの評価はもっと低いようだ。
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12380387.html?rm=150

G7リサーチ・グループが会場で配布していた伊勢志摩サミット特集号。
余談であるが、カナダからはこのG7リサーチ・グループの大群がメディア・センターに乗り込んで、一角を陣取って活動していた。NGOの何人かはこのグループのインタビューを受けたと語っていた。個別課題の評価にはこういうインタビューが反映されているのかもしれない。
来年のG7サミットはイタリア、その次はカナダだ。今回、サミット初参加であったトルドー首相への関心は、他の国に比べれば高かった。ただ、夫妻で天皇・皇后と会見したこと、1日休暇をとってワーク・ライフ・バランスをアピールしたことという、もっぱらG7の政治課題とは関係がないところで注目されていた。2年後のサミットではトルドー首相は何か政治課題で注目されるものを提示することができるのか、いやそれよりもG7が今後どういう形で続いていくのか、しっかりと見守っていきたいと思う。