セクハラ社会が示す未来?
文・斎藤文栄
今回、原稿を書くにあたって、以前このサイトに書いたゴメシ氏セクハラ事件で触れた、被害者に対するセクハラ発言(*1)を行ったアルバータ州判事が、罷免されるかどうかの瀬戸際にいるということを取り上げようかと思ったのだが、あまりにもこうした女性差別事件ばかり取り上げるのも少し記事に広がりがないかなと思い、別のテーマを探していた。
その矢先に、大統領選におけるトランプ氏の女性差別かつ性暴力的発言が飛び込んできた。発言はオフレコでのものだったが、しかしトランプ氏の女性に対する認識がよくわかる内容だった。大統領選の中で、トランプ氏にまつわるこうした聞くに堪えない発言はあまりにも多く報道されるので、私を含めうんざりしている人も多いと思う。しかし、看過することができないのは、トランプ氏が米国大統領候補者であるという点だ。・・・というわけで前置きが長くなったが、やはり今回もセクハラ発言を取り上げることになった。
なぜリーダーのセクハラ発言を看過することができないのか。
例えばカナダのトルドー首相。友人らの中には、かっこつけすぎて好きではないという人もいるが、フェミニストを自称し、人権擁護に熱心な彼の口からは、トランプ氏のような性差別発言を聞くことは断じてない。就任後1年が経ち、そろそろハネムーン期間も終わり、公約との乖離が現実の政治ではみられるようになっても、彼が率先して女性やマイノリティを貶める発言をする姿は想像できないだろう。
カナダの連邦政府の中では、トルドー首相の就任以来、それまで人権について耳を傾けなかった官僚が自分の話を聞いてくれるようになった、と政府のある人権担当官が語っているのを聞いたことがある。こんな風に、リーダーの姿勢というのは、 具体的な政策に反映されると同時に、人々の意識にも影響し、ひいては国の方向性を決めていくものだとの認識を新たにする。トランプ氏が大統領になったら・・・米国で女性(に限らないが)は今より生きづらくなることが簡単に想像出来るだろう。
さて、トランプ氏の発言に対するカナダの反応であるが、キャンベル元首相は取材に対し「同意のない性的接触は性暴力だ」と彼の発言を諌める発言をしている。(*2)またツィッター上では、 この機会に自分の息子たちに「尊重」と「同意」ということを教えなければいけないとの父親たちのツィートのやり取りが話題になっている。(*3)このあたりの冷静な議論が、実は一番大切なところだ。
以前の記事でもとりあげたように、北米では、著名人による同意のない性的暴行・発言に関して、カナダでは ラジオ番組の 人気パーソナリティーであったジアン・ゴメシ氏、米国では大物俳優であるビル・コスビー氏、最後に実業家・政治家候補のトランプ氏と、ここ最近、似たような事件が立て続けに表に出てきた。その都度メディアが一斉に問題を取り上げる割には、いつまでもこうした被害はなくならず、私たちは怒り続けることに疲れ、感度も鈍くなりがちだ。しかし安易にうんざりだと耳を防ぐことなく、その度に、私たちはこれらの事件を通して必要なことを学び合い、社会が成熟していく契機にしなければならない、と自戒をこめて強く思う。
(*1)性暴力を受けた被害者に「なぜ両膝を閉じておかなかったのか」と法廷で問い質した。http://www.cbc.ca/news/canada/calgary/robin-camp-judge-close-knees-inquiry-1.3743554