マルティカルチャー精神を育む教育 

文・ケートリン・グリフィス

トロントの公立小学校に通っている娘の課題の一つに「祖先を調べる」があった。これは6年生のソーシャル・スタディー(日本では「社会」になるのだろう)の一環でトロントの全公立小学生が行うプロジェクトだそうだ。

Toronto_skyline (1)調べる内容は「家族がいつどこから何の理由でカナダに移住してきたのか」である。親や祖父母に家族の歴史を聞き、自分のルーツを確認するといったものだ。しかし、そもそも、この課題が成り立つためには「トロントの住民はすべて移住者」といった先入観がなければ成立しないものだろう。トロント教育委員会(通称TDSB)は、子供たちがマルティカルチャーを受け入れその精神を育てるために実施させているのだろうか?学校のクラスメートや仲間がそれぞれ違う背景を持ち、他文化の影響を得ていることが「普通」だということを自覚させるためのものだろうか?課題理由は正直わからないが、小学生の頃から多文化の受け入れを認識させ、意識を芽生えさすのは非常に良いことだと思う。

娘の学校では調べた内容をまとめ、家系図、国旗、写真などを使ってポスターを作成し発表させる。正式な発表はクラス内だけだが、全校生と6年生の保護者にもポスターを閲覧できる機会を提供してくれた。そこに私も足を運んだ。

娘のクラスには28人生徒がいるが、祖先出身国が一つだけの子どもは一人もいなかった。平均3つの出身国を挙げていたように思う。祖先をたどるうちに11ヶ国(カリブ海の小さな国からロシア)までまさにインターナショナルな経歴の持ち主もいる。また見た目は「白人」でも中国やアフリカ系の曽祖がいたりと、改めて外見で判断する怖さを思い知らされた。

出身だけでなく、カナダへ来た理由もそれぞれで、職をもとめてヨーロッパから19世紀に移住してきた者、アジアやカリブ諸国から職を得るため20世紀に移ってきたなど、子どもたちのポスターを読んでいく中で、実際に学んだカナダ移民史がなんとも身近にあるものだと再確認する機会となった。

経済的な理由からの移住が多い中、安定と平和を求めてカナダを選んだという家族も目立った。国内の戦乱から逃れるために渡ってきたお爺さんやお婆さんの体験、政治的な理由で父と母のそれぞれの出身国が敵対国となり引き裂かれないためにカナダへ来た話、正式に同性結婚が認められているカナダで家庭をもちたいために来た親、など、どんな歴史番組よりも内容の濃い面白いポスターぞろいで、すべて読み切れず時間切れになってしまった。

countries-1301799_960_720他の保護者との会話中にわかったことだが、祖父・祖母が「孫の頼みとあれば」と、前向きになり、この機会にということで家系を調べるためのウェブサイトに登録したりして、想像を超える情報を孫に与えてくれたらしい。情報量が多すぎてまとめるのに困ってしまった子どももいたという。この課題によって、親同士が実は親戚だということが初めて分かった、とか、クラスメートの二人も実はつながりがあったなど、まさにドラマ満載。

このプロジェクトを通して祖父母らとのコミュニケーションが深まり、また自分のルーツとカナダの歴史に興味を持つ。それ以上に同じクラスメートの仲間にもそれぞれストーリーがあり、身近に想像もつかない経験を経てきた人たちがいることへの認識は多文化への尊重と尊敬につながるのではないだろうか。

「すべてが移住者」との先入観をもってしてのこの課題だが、実はこの項目には二選択あり、祖先の歴史以外にも「興味ある人にインタビューをする」といったタイトルの課題を選ぶこともできる。確かに触られたくない歴史を背負った家族や、親せきや祖父母と連絡を一切とっていない家庭もいると想定しているところもTDSBらしい配慮だ。

今後も多文化の街・国を自覚させるこのようなマルティカルチャー精神を育む教育を推進し、世界へ羽ばたいていける子供たちの育成を目指してほしいと願う。

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