日本のお葬式で何を着ていいのかわからない!
文・広瀬直子
10年以上トロントに住んでいる日本人の女友達が、もうすぐ日本に一時帰国することになって私に相談してきた。親戚の葬儀に出席するのだが「何を着ていいのかわからない」らしい。日本に到着する次の日が式なので、日本でそれらしき服を買いに行く時間もないと言う。
彼女が私を相談相手に選んだのは、完全に間違いだった。私は日本を20年以上離れている。昨年、親類が亡くなって日本に一時帰国した時、葬儀を執り行ってくれたお寺の僧侶は私を最初に見て「日本語が話せますか?」と訊いたぐらいだ。私は20代前半まで日本に住んでいたし、日本語が母語で、顔も東アジア人だ。でも、日本に住んでいる日本人に見えなかったらしい。
今思えば、私の「喪服」が変だったのだろう。もっている黒い服の中で一番フォーマルなワンピースにジャケットだったのだが。
そう、カナダの一般的なキリスト教式に一定の「喪服」というものはない。お葬式に行くと参列者がカジュアルなのでびっくりするほどだ。例えば、グレーのカーディガンに地味なスカートやズボン姿の人もいる。要はカラフル過ぎず、チャラチャラしていなければいいのである。
私と冒頭の友達は日本には一定の喪服があったことを思い出し、楽天市場で「喪服」で検索してみることにした。
そっかー!日本で売られている洋服の喪服はワンピースが主で、どのワンピースも同じようなカットだ。スカートの丈はひざ下。そして写真のモデルはみんな真っ黒の小さなカバンを持っている。アクセサリーは真珠が定番らしい。
私が去年、日本のお葬式で着たワンピースはひざ上、ネックレスは銀のオープンハート型。カバンも黒だったけど、ビジネスサイズより少し小さいぐらいで、白ぶちに銀色のバックルが付いているものだった。確かに喪服の様式から外れていた。それで日本に住んでいる日本人には見えなかったらしく、僧侶に「日本語話せますか?」と訊かれたのだ(ちなみに、日本にずっと住んでいる母親は、非日本化する私を受け入れてくれているのか、あえて指摘しなかった)。
日本には、お葬式にも「制服」のようなものがあるのだった。友達と私は、自分たちの浦島太郎(花子?)化がなんだか可笑しくなって一緒に笑った。結局彼女は、カナダを出る前に通信販売で日本の実家に喪服のワンピースを届けておいて、日本に着いたらすぐに着られるように手配した。
改めて思う。自分が喪服に失敗した言い訳かもしれないが、なんで日本人は、いろんな機会でいっせいに「制服」を着るんだろう、と。しかもディテール統一のプレッシャーが厳しい。「みんなと同じ型にハマれます」とアピールして採用してもらうリクルートスーツは喪服よりももっと不思議だ。陳腐な言い方しか思いつかないけれど、やっぱり個性を消すのが美徳なのか。それで、本当に創造力やイノベーション力のある人が育つんだろうか。