日本的謝罪の不思議

文・三船純子

日本のメディアを通して、色んな人がしょっちゅうカメラの前で謝っているのを目にする 。有名人の不倫、不正、脱税疑惑、暴言やスキャンダルの発覚を初め、企業や団体の不祥事の場合には、責任者が当事者に変わって謝罪する。

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「ご迷惑をおかけして、大変申し訳ございませんでした。」、黒っぽいスーツ姿で深々と頭を下げる人を見る度に、取りあえず正式に謝罪しないと、その過ちを許さない日本的慣習や世論の厳しさを感じる。謝罪内容そのものに対してよりも、世間を騒がせてしまったことへの謝罪の比重も大きそうなのは、出る釘は打たれる日本的な思考に起因するものなのか。

有名人などの謝罪会見の場合には、弁護士やコンサルタントが、なるべく多くの日本人が納得してくれるであろう「リスクマネージメントのテンプレート」に基づいた模範謝罪法や謝罪文、なるものを指南するそうだ。それでも会見時の態度やそのタイミングなどにクレームが出されたりすることもあり、謝罪のマナーとテクニックは色々と複雑そうだ。

昨今はSNS上の発言やニュース記事への投稿欄に、誰でもコメントを入れることが可能なので、そのコメントの傾向が世論を影響することになる。そして今度はその世論に押されて、「炎上」*した自分の失言に責任を取らざる得なくなり謝罪に追い込まれるなどということも出てきている。日本に限らず、最近世界中のそこかしこで同じような事が起こっている のは、オンライン上での情報拡散の早さにも比例しているのであろう。まあ、炎上しても決して謝罪も訂正すらしない大統領もいるが。

先日、日本に帰国した際に、大きなスーツケースを持ってあちこち移動した。混雑する都内の駅や電車にスーツケースを持ち込む際には、「すみません、すみません」と言いながら人混みをかき分けた。レンタルした携帯用Wifiを充電したまま新幹線に置き忘れてしまい、駅員達に助けてもらった時にも「ありがとうございました。色々お手数御かけして、申し訳ありませんでした。」というような言葉が自然に出てくる。新幹線の車内販売で物を買った際、販売員に「お釣りが細かいものしかございません。申し訳ございません。」と謝られた。日本にいると何故か自然と謝罪したりされたりが増える。

Picture_G8_apologies_2日本では電車が数分遅れと、「ご乗車の皆様には大変ご迷惑をおかけしております・・・」とアナウンスが流れるが、トロントでは地下鉄が遅れても、謝罪のアナウンスどころか、状況報告のアナウンスさえはっきりしないこともある。でもトロント市民はそんな故障や地下鉄が止まることなどには慣れっこになってしまっているので、「またか、しょうがないなぁ」とあきらめて、さっさと臨時バスに乗り換えるのが常だ。

カナダに戻ると反対に、ちょっとやそっとでは謝らないカナダ人気質のようなものに、気が付くとイライラしている自分がいる。銀行で口座移行の手続きを間違えられたり、店で会計が間違っていたり、約束の時間に業者が来なかったりしても、その理由を説明されても謝罪の言葉は無い事が多い。そんな時には、ちゃんと手続きが済み、業者が仕事をしてくれたらそれで良しと思うことに慣れっこになっている。

先日、買ったばかりの家具にヒビが入り家具屋にクレームを出すと、謝罪の言葉は一切なかったが、違うモデルのテーブルと交換してくれることになった。こちらが店に再度足を運んで新しいテーブルを選び直し、そのテーブルとの交換配達も待たなければならないことへの謝罪はなく、それでも「私達はお客様に満足していただきたいので!」と笑顔で鼻高々に対応されると、ちゃんと交換してくれてフレンドリーに対応してくれただけでもまあいいか、と自分に言い聞かせた。

仕事関係のセミナーで、「許し」について参加者各自の経験をシェアするディスカッションがあった。自分を傷つけた相手を許すことへの葛藤を話す人がいたり、先住民の歴史や日系カナダ人収容のへのカナダ政府の補償対応や公的謝罪の歴史などの話から、「謝罪の大切さ」に移った際に、日本の謝罪文化について言及したら、多くの参加者にとても興味を持たれた。上辺だけでも取りあえず謝ることを強いられがちな日本では、謝られた人は許したいという気持ちにならないと思う、と私は発言したのだが、なかなか謝罪しない北米の人々にしてみれば、そのようにすぐに「一応」謝罪するくせに、政治的な史実に関しては謝罪を拒み続ける日本人は不可解に思えるらしい。

日本の謝罪文化に違和感を覚えながらも、自分のカナダの生活を振り返ると、取りあえず「すみませんでした。」と言われたていたら、「まあ、しょうがないよね」いう気持ちになれた事も多々あったような気がする。現にこのような記事も書いているので、自分には日本的な感性が根強く宿っているのであろう。

*「炎上」とはFacebookやTwitter、ブログなどのSNSサイトのコメント機能を使って、火が勢いよく燃えるかのように好意的ではないコメントが集中的に投稿されること。

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