夏の予定―COVID-19で考えるこれからの生き方
文・斎藤文栄
このところ私は、毎年のように職を変え、住む国を変えているのだが、夏はカナダに行って、我が家のあるトロントと配偶者の実家のあるウィニペグで一定期間過ごすというのが恒例化している。
ここ2年ほどは日本にいるが、冬の段階から、今年の夏は少し早めに7月初め頃からカナダに行こうかと考えていた。カナダの夏の過ごしやすさと、家族・友人達に会うのを半年も前から楽しみにしていた。
今年の夏、早めに帰ろうと思ったのには理由がある。私はカナダの永住権保持者(Permanent Resident:PR)なのだが、永住権といえども5年ごとに更新が必要で、その更新のためにトロントにある移民局に7月中旬までに出頭する必要があるからだ。更新の申請をした場合、通常は郵送で新たなPRカードが送られて来るのだが、今年はなぜか新たな出頭命令が来て、面倒くさいなと思っていた。それでも、少し早い夏休みを取って行けば十分間に合うと思っていたところにCOVID-19がやってきた。
幸い、移民局への出頭期限は半年延びたのだが、今度は別の問題が浮上した。渡航制限である。
まずカナダへの入国については問題なさそうだ。カナダ入国は、カナダ人はもちろん条件なく入国できるが、外国人が、カナダに入国する条件としては、1)カナダ国籍を持つ人、あるいはカナダの永住権保持者、あるいはカナダ国籍を持つ人の直近の家族であって、2)15日以上滞在する場合であれば、外国人であっても入国できる。15日というのは、14日間自宅待機が義務化されているからである。私は永住権保持者にあたるので大丈夫そうだ。(PRカードの有効期限は切れているが、それに代わる2年間有効のビザを出してもらった)
次に、カナダでの入国ルートである。カナダは州によって水際対策(伝染病や有害生物などの上陸を阻止するために、空港や港などで実施される検疫や検査などの対策のこと)が異なっていて、ウェニペグのあるマニトバ州は、国内便でも国際便でも変わらず14日間の自宅待機が義務付けられる。(ノヴァスコシア州やプリンスエドワードアイランド州などは州の間の移動を禁止している)もしトロントを先、その後ウィニペグとなると、合計28日間自宅待機しなければならないことになるから、ルートには気をつけなければならない。バンクーバーから入って、先にウィニペグ、次にトロントというのが理想的なルートだろう。幸い、今の日本の職場は在宅勤務が可能なので、在宅と有給休暇、夏休みを合わせれば1ヶ月ほど日本を離れることに問題はなさそうだ。
問題は、日本入国である。現在、日本は4月3日以降に出国した場合、日本人と特別永住者以外のカナダからの入国を基本的に認めていない。少し前にニュースになっていたのだが、母親の葬儀に参列するために韓国に帰ろうと思ったが、日本への再入国が認められないというので断念した、日本在住11年になる外国人の話があった。(*1) この件があってから、6月12日に法務省は新たに、重篤な状態にある親族のお見舞いや葬儀に参列する場合、外国の医療機関で治療や出産する場合、外国の裁判所に証人として出頭する場合など3つの条件に限り、再入国を認めることがあるとすることにした。(*2) しかし、この措置によっても、一度出国してしまうと私の夫は日本に入国することができない。なので、今、私たちは首を長くして日本の入国規制が緩むのを待っているという段階だ。日本もカナダのように日本人の家族であれば入国を認めるというようにしてほしいと思っている。もちろん、感染を最小に抑えるということが一番大切だが、誰を入国させるかという判断の背景に、国が「家族」のあり方をどう考えているかという思想が透けてみえる。
もっと複雑なのは、私の友人のカナダ人家族のような場合だ。彼女らは夫婦揃って日本で仕事をしているが、一度カナダに帰ってしまうと日本に戻って来られないことから、カナダの家族に逢いに行けないと嘆いている。
国・地域別の海外安全情報 外務省海外安全ホームページ https://www.anzen.mofa.go.jp (6月15日現在)

感染症危険レベルはレベル3(紫色)渡航は止めてくださいという渡航中止勧告のところがほとんど。薄紫色はレベル2不要不急の渡航は止めてください。
今まで、私たち夫婦は移動の自由を思う存分に享受してきた。子どもがいないということもあり、どこで暮らすかということについて、それほど深く悩まずに決めてきた気がする。もちろん、親の死に目に逢えないということは考えたが(実際、義父が亡くなったのは私たちがネパールにいる時だった)、夫婦が離れ離れになるリスクや、行き来ができなくなってしまうリスクについては想像したこともなく、何かあればカナダだって翌日には行ける、3日あれば日本に帰って来れる位の感覚だった。
日本国内ですら、田舎と都会を行き来しつつ暮らしている人が、自らのライフスタイルを見直す動きが出ている。COVID-19を機に、今までのような暮らしはできなくなる。どこで働くか、どこで暮らすかということをもう一度真剣に考えてみようと思う。
(*1) https://www.asahi.com/articles/DA3S14504839.html?iref=pc_rensai_long_16_article
(*2) http://www.moj.go.jp/content/001321919.pdf