カナダ大自然への逃避旅行

文・三船純子

この夏、思い切ってカヌー・キャンプ旅行に挑戦した。カナダらしい経験をアラ還で経験することになるとは、実は自分でも以外な展開だった。

日本の小中高を共にした幼なじみが、カナダに遊びに行くならカヌー旅行をしたいというので、彼女の為に情報を集め始めたのは去年のこと。その際にトロントの友人を通して、アルゴンキン州立公園でPark Naturalistとして仕事をされ、旅行者のガイドもされている日本人移住者のKさんと知り合った。

乗り気の幼なじみに、「この歳で、カヌーを担ぎ、テントで寝袋に寝るのは私は絶対無理」と当初は言っていたのだが、アウトドアの経験豊富なKさんのカナダの自然に対する熱い思いを聞き、「僕がちゃんとサポートしますよ」と言う彼の言葉に、その気持ちが少し動いた。結局幼なじみはカナダに来られなくなったのだが、カナダらしいアウトドア経験をしてみるのは、もしかしたら今しかないかなと思うようになった。今が最後のチャンスのような気がして来たのだ。カナダ人は夏休み中の子供のサマーキャンプなどで、カヌー・トリップを経験したことがある人が少なからずいる。私はカナダに移住して二十年後に挑戦してみることにした。

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Kさんのガイド付きの旅行プランは、数日間分のキャンプ道具と食料をカヌーに積み込み、キャンプをしながら州立公園奥地を3泊4日で巡るInterior Canoe Trip「インテリア(内陸地) カヌー・トリップ」というものだった。

還暦を超えた夫はカヌー旅行が大変だった昔の経験があるからと躊躇したので、ハイキング好きの同年齢のカナダ人の友人を誘い、Kさんのガイド付きのカヌー旅行にチャレンジすることにした。この旅行の最初の打ち合わせをKさんと友人と3人で市内のレストランで3月にしたのが、オンタリオ州で非常事態宣言が発令される直前だった。

州立公園がオープンになるかどうかも暫くわからぬまま、春から夏と季節が変わり、将来が見えなく不安と心配ばかりが膨らむ日常から離れ、大自然に癒されたいと気持ちはどんどん膨らんでいったのだった。

今回の旅行では、水路の途中の陸の上の移動はカヌーや荷物を担いで迂回する「ポーテージ(portage)」も経験した。ポーテージの長さは短いものは数百メーターから最長1.3キロの距離を数回経験したが、重さ数十キロもある荷物を担いで歩くのは結構な重労働だった。

それでも、東京都の広さの3.5倍と呼ばれるアルゴンキン州立公園の雄大な自然の美しさの本の一部に触れ、ムース、ビーバー、白頭鷲、カナダ・ギース、ルーンなどの野生動物にも出会うことが出来たのは、かけがえの無い経験となった。

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3月から毎日のようにコンピューターやスマホの画面を見て、コロナ感染者数を気にする5ヶ月間だったが、この旅行中はスマホをチェックすることもなく、目に映る自然を愛め、遠方を眺め野生動物を探したりしていたので、目の疲れがいつもと全然違った。

旅行の始まる前日と終了後は、州立公園内のロッジに宿泊したが、ロッジは公園内の主要道路から入り込んだ所にあり、インターネットの接続が悪かったので、正味六日間インターネットへのアクセスは皆無だった。そのお陰で心を暗くしがちなメディアからの情報をシャットダウンし、目の前に広がる自然の光景を愛で体験することに集中出来た。

また、今回ご一緒したご夫婦が、なんともうすぐ八十路の素敵なカップルで、仲良く全工程を楽しんでおられたのに、とても刺激を受けた。お二人ともクリエーティブなお仕事をされてきたせいか、体だけでなく心持ちに余裕を持って生きておられるとお見受けした。

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ガイドのKさんからは、アルゴンキンの大自然とその歴史について沢山のことを教えていただいた。またサービス精神旺盛なKさんがキャンプ・サイトで作る食事は、どれもとても美味しくて、気持ちよく動かした体に、毎日いい感じで収まっていった。まさかこれがキャンプで食べられるとは!と言うサプライズ・メニューもあった。

心身共に癒される経験となったが、アラ還の体は流石にビックリしたようで、筋肉痛と疲労回復にちょっとだけ時間がかかったと言うオチがあったが。私が八十路に近づいた時に、ご一緒したご夫婦のようにカヌー旅行をしたいと思う体力と心の余裕があるかわからないが、当初諦めかけたことを思い切ってやってみて、本当に良かったと思っている。

 

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