「老いらくの恋」
文・サンダース宮松敬子
平均寿命
表題のこんな言葉を知っている人は、それなりに歳を重ねていることと想像する。筆者もその一人だが、言葉自体は知っていたものの、その由来となると定かではなかった。
そこで早速googleしてみると「年老いてからの恋愛。昭和23年(1948)に、68歳の歌人川田順が弟子と恋愛/家出し『墓場に近き老いらくの、恋は恐るる何ものもなし』と詠んだことから生まれた語」とある。
「ふ~ん、なるほど」とgoogleの便利さに改めて感心しながら「えっ 68歳で ‟墓場に近き老いらく” なら当時の平均寿命って幾つだったの?」と反射的に思い、またまたgoogleする。出てきた統計では『男55.60、女59.40』とあり、「ああこれじゃ、68歳が“老いらく”であったのも頷けるわ」と納得したのだ。
「では現在は?」と尽きぬ興味に押されて更に調べると、平成32年(2019)の厚生労働省発表によると『男81.41、女性87.45』となっているではないか! 日本が世界に冠たる長寿国なのは知っていたが数字はうろ覚えだった。
ざっと計算してみると、この70年ほどの間に何と男性は26歳、女性は28歳も寿命が延びているのだ。「すご~い!」と心底驚く脳裏にツラツラとよぎる思い出は、戦後国民的人気を博した漫画サザエさん一家の家族構成であった。父親の浪平さんは54歳の設定だったそうだが、ツルツルの頭の天辺には毛が一本ピンと立っているだけでどう見ても老人そのものの風体。だが誰も不思議とは思わなかったし、また小学校などで当時歌われていた童謡『船頭さん』の歌詞は、♪村の渡しの船頭さんは 今年六十のお爺さん 年を取つてもお船を漕ぐ時は~♪といった具合であった。
西海岸ビクトリア市事情
まあ歳の計算はこの辺で置いておくとして、何故こんなに年齢の事を書くかと言えば、最近72歳の友達が、90歳の男性とゴールインしたからである。若い頃はキャリアを持って活躍し経済的にも独立していた彼女。だが人生の終盤に差し掛かり、以前の結婚では得られなかった幸せのお裾分けを友人たちにも振りまいてくれるのだ。
先日も、インターネットでみた短歌 “老いて今、拾った小さな恋の花、有効期限過ぎぬ間に咲け” に共感し、“老いて今、拾った小さな恋の花 賞味期限内に満開” と字余り/字足らずなど全く気にせずに仲間に送って来てくれた。70代に入り新たな幸せを掴み喜ぶ様子には「末永くお幸せに・・・」と心からの言葉を送りたくなる。
食糧事情が良くなったせいで先進国の人々が長生きするようになったのは、日本ばかりではなくカナダも同じ事。中でもビクトリア市(BC州)は国中で気候が一番温暖なため、リタイア後に当地に移り住むシニアがワンサといるのである。
となればあちらからもこちらからも、“老いらくの恋” の話が聞かれるのは当然の成り行きと言えよう。だが昔と大違いなのは、それが70代、80代、90代の人々の間で花盛りなことだろう。
「中古の家具売りたし」の広告を出した70代とおぼしき女性は「結婚で彼のヨットが新居になるのだけれどサイズが多き過ぎるので」とか、コンドミニアムのリノベーションに夢中な男性は70代後半で「彼女はまだ離婚訴訟中だけど書類が完了したらここを新居にしたいから」とか、「お互いに犬好きが縁で最近結婚したけど犬同士は私たちみたいに仲良くないの」とにが笑いするカップルの女性は70代だろうか、一方男性はどうひいき目に見ても80代後半、と言った具合である。
なぜ逆は真ならずか
問わず語りに彼等の話に耳を傾けると、こうした高年齢で結婚(大体は再婚)する男性たちには、幾つかの共通点が見られて興味深い。ほとんどの場合女性より15~25歳くらい年上なこと、生活が安定しておりある程度の蓄えがあること、一人暮らしに寂寥感を感じていたこと、等など・・・。
口の悪い友人に言わせると「元気な内はいいけど、将来この年若い奥さんは看護婦になる可能性大ね」と言い、続けて「でも彼女たちの老後は金銭的な心配はないってわけよ」と。
そこで私は「でもここにはお金持ちの女性も多いのに、男女真逆のカップルはどうして誕生しないのかしら?」と問えば、「それが世の流れだから」とスパッと言い切る。「ちょっと変わっていると世間体が悪いのはカナダも同じなのよ。つまりstrings attached to itで(「何か条件があるのでは?」と言う)好奇な目で見られ『あの男性かわいそう・・・』なんて方向に行きかねないからね」と解説が付く。
「トランプ大統領とメラニア夫人だって24歳の年齢差があるけど「夫が年上の場合は『彼女がかわいそう・・・』とはならず『贅沢出来てウラヤマシイ!』となる」と言う。
更に彼女によると、妻が年上でもとても素敵なカップルの代表は、(2,3日前にCovid-19に掛かってしまった)フランスのエマニュエル・マクロン大統領(42歳)とファーストレディのブリジット夫人(65歳)だそうだ。
今ではよく知られているように、大統領が15歳の時に中学の教師をしていた40歳の夫人と知り合い、25歳の歳の差を越えて13年前(2007年)彼が29歳、夫人が54歳の時に結婚した。容姿端麗で素晴らしく知的な女性とは言え、マクロン氏が大統領に当選した時には、口さがない連中に「マニアックか?!」とまで言われたそう。でも一方「奇想天外」だとは思わないフランス人も多かったのは、さすが個人主義が徹底した社会だからと評されたとか。
もう一人は『肉体派女優』と言うレッテルを張り続けられているイタリアの映画女優ジーナ・ロロブリジーダが、34歳年下の恋人(45)を2006年に某雑誌に紹介した時は世間をアッと言わせたそうだ。今二人がどうなっているかは定かでないが、真逆の関係が確かに少ないのは残念であることよ!