相撲と野球とアイスホッケーに共通することとは

文・鈴木典子

相撲は日本の国技で、野球は日本で最も人気のあるスポーツ、アイスホッケーはカナダの国技である。この3つのスポーツの共通点は何だろう。

まず相撲と野球だが、米国からやってきた野球が爆発的に日本に普及し、好まれたのは、投手と打者が一対一で対戦するスタイルが大きな理由だと言われている。日米野球文化比較論を展開したロバート・ホワイティングの著書「菊とバット」(注1)には、「【仕切り】大相撲の仕切りのように投手と打者が間合いを取って対戦するスタイルが日本人にとってなじみ深い」と記載されている。

確かに、制限時間いっぱいまで何度か仕切る相撲の立ち合いと、3ボール2ストライクまで対戦できる野球の打席には、相手との駆け引き、相手の得意技への対策など、相通じるものがある。

では、この2種目とアイスホッケーの共通点はというと、それぞれの国民に熱狂的に愛されていることを除くと、実は「脳震盪(Concussion)」だと言ったら、納得されるだろうか。

2月9日の朝日新聞「取材考記」に「脳震盪『命に係わる』 力士の意思問わず取組中止~角界にも体を守る新ルール広がって」という論評が掲載された。内容は、今年1月の初場所頭からぶつかり合った取組が不成立になり、片方の力士が立ち上がれなくなったが、本人の強い意志を受けて取り直しされた経緯について「取り直しをさせるべきではなかった」という意見が殺到し日本相撲協会が、「脳震盪が疑われる場合は本人の意思を問わず(斜体太字筆者)取り直しは行われない」というルールを新設した、というものだ。

野球も、硬球が時速140㎞とかで飛んでくるわけで、ヘルメットをかぶっていても頭部に直撃したら死亡事故につながる恐れがある。球場はフェンスで囲われており、フェンスの下の方はクッション性のある覆いがついてはいるものの、守備で球しか見ずに激突しての怪我も多い。空中高く舞い上がったフライを取ろうとした選手同士や、ベースに滑り込む選手と守備の選手がぶつかることもある。

かたやアイスホッケーは、カナダではよちよち歩きの頃からプレイし始めるくらいポピュラーだが、典型的なコンタクトスポーツ(体と体がぶつかり合う競技)で、脳震盪を起こす程の激しいぶつかり合いは日常茶飯事だ(しかもしょっちゅう乱闘が繰り広げられる)。当然死亡事故も多発したのだろう、今は年齢に応じてコンタクトの内容が厳しく制限されており、特に脳震盪を疑われる場合は即刻出場停止させた上で専門医の診断書の提出、経過観察、再診断などを経ないと再出場できないルールが普及している(注2)。

Photo by Claudio Schwarz | @purzlbaum on Unsplash

このように、この3つのスポーツには、脳震盪を起こしやすく、選手を守るルールが必要である、という共通点があるのだ。

さて実は、野球にも脳震盪が多いというのは私見であり、この論評を書いた同紙スポーツ部の記者が野球と相撲を取り上げたのは少し違う視点である。記者は相撲の話に続けて、高校野球の公式戦で昨年から「投手一人当たり1週間に500球まで」という投球制限ルールが導入されたことを引用して、野球にせよ相撲にせよ、選手や力士の体(生命)を第一に考えるという機運が高まることを期待すると結んでいる。

投球制限ルールについては私も過去の記事で説明したことがあるが、私がいずれのスポーツについても重要だと思うのは、「本人の意思にかかわらず出場させない(投げさせない)ことをルールとして定める」ことだ。野球で言えば投手はここで肩が壊れて一生野球ができなくなっても今は全力で投げ続けたいと思う。力士は「番付社会を駆け上がるため、けがを押してでも白星(勝利)を積み上げたい」し、休んだら黒星(不戦敗)となったり次の場所での番付が下がってしまう。そして、観客はそんな姿をみて怪我を恐れずに戦う姿を褒めたり感動したりするから、選手たちは怪我や不調を隠してでも頑張ってしまうし、監督や親方は「本人がやりたいと言うから」やらせたいと思ってしまうのだ。

カナダではアイスホッケーにせよ野球にせよ、シニア世代になっても現役でプレイを楽しんでいる。ルールで守られているというより、若いころにその場の感情で体を壊してしまうことなく生涯そのスポーツを楽しめるような、社会の意識、スポーツに対する考え方が違うのかもしれない。

日本のスポーツを愛する人たちが(特に青少年が)好きなスポーツを生涯好きで続けていけるような社会に、少しでも近づいてもらいたいと切に願っている。

注1:第二次世界大戦中の調査をもとに米国人女性人類学者ルース・ベネディクトの著書「菊と刀」のような文化論を意図したと思われる。

注2:GTHL(Greater Toronto Hockey League) concussion policy summary Click to access GTHL-Concussion-Policy-Summary-2019-2020.pdf

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