アフガン、そしてナイジェリアをつなぐジャーナリスト

 文・斎藤文栄

CBC(カナダ国営放送)レポーターのメリッサ・ファン(Mellissa Fung)がアフガニスタンで誘拐されたのは2008年だから、もう13年前になる。

誘拐されていた28日間、彼女は穴蔵に入れられ、時に暴力を振るわれ、性暴力を受ける。しかし解放を信じ、相手を分析し、コミュニケーションをとり、その期間を生き延びた。

彼女はその経験を「Under an Afghan Sky(アフガニスタンの空の下で)」の題で本にまとめているので、興味がある人はぜひ一読してほしい。

ちなみに私は、読み始めたものの最後まで読み通す気力がない。閉所も暗所も苦手な私は、彼女がインタビューでその誘拐中の様子を克明に語っただけで息苦しくなり、ビデオをいったん停止しなければ最後まで見られない程だった。

そんな過酷な経験をした後では、報道記者という道を辞めてしまってもおかしくない。しかし驚くことにファンは、CBCが彼女を前線に戻すことはなかったため、CBCを辞め、フリーランス・ジャーナリストとなる道を選んだ。5年の後には、ふたたびアフガンに戻っている。なぜ戻るのか問われたファンは、私の誘拐に焦点があたってしまったために、伝えるべきレポートを届けることができなかった。当時、撮っていたものをまた追いたい、との思いを語っている。

今年2月、ファンが、4年かけて撮影したドキュメンタリー映画がTVO(TVOntario)で放映された。「Captive(囚われの身)」と題された映画は、ナイジェリアのイスラム過激派組織ボコ・ハラムに誘拐され、戻ってきたサバイバーである少女たちを追ったドキュメンタリーである。

Captive | A TVO Original Documentary(残念ながら日本からは視聴できない)

https://www.youtube.com/watch?v=CCpjTAGQkeA

Captiveの完成を記念し、TVOのスティーブ・ぺイキンがファンをインタビューしたビデオは日本からも視聴できるので、ぜひご覧になっていただきたい。

ボコ・ハラムといえば、2014年にナイジェリアのチボクにある寄宿学校から、女子学生276人を拉致した事件が有名であるが、ファンが対象としたのはその事件のサバイバーではない。チボク以外でも、ナイジェリアでは、常時、何百、何千という少女が誘拐され、ボコ・ハラムの監視の下、暴行、性暴力、強制婚を強いられているという。ファンが引かれたのは、チボクの少女たちではなく、そうした名もなき少女たちだという。少女たちは運良く逃げ出し、自分の村に帰って来ることができても、今度は村人からの差別、トラウマに直面する。

「誘拐」という題材は、ファンの個人的な経験とボコ・ハラムの少女たちの経験をつなぐものである。ファンだからこそ、少女たちも共感し、心を開いて語ることが出来る。ファンを掻き立てるのはそうした使命感のようなものだという。

しかし、この映画は単に同情心を煽るものではない。私たちは、ファンや少女たちが、トラウマになるような苦難を経験しながらも必死に生きていく姿に、生きる勇気をもらうことができるのだ。

ファンが語る新たな物語に、これからも注目していきたい。

参考リンク

Brave accounts of abductions, violence and survival in TVO Original ‘Captive’ premiering February 16

https://www.tvo.org/about/brave-accounts-of-abductions-violence-and-survival-in-tvo-original-captive-premiering-february-16

‘I had to find them’: kidnapped filmmaker Mellissa Fung on her mission to find the Boko Haram girls

https://www.theguardian.com/world/2021/may/23/i-had-to-find-them-kidnapped-filmmaker-on-her-personal-mission-to-find-the-boko-haram-girls

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