日本の部活動と教師の働き方改革の動き
文・鈴木典子
昨年から今年にかけて「部活動の在り方」と公立学校の「教師の働き方」が大きく動いている。中学校の部活動の「地域移行」のきっかけとなった教師の長時間・時間外勤務の認識と部活動顧問業務の見直しだ。
部活動についての問題意識は、2013年1月に、大阪市立桜宮高校男子バスケットボール部主将が、顧問から受けた暴力などを理由に自死したことから大きく取り上げられるようになった(注1)。私自身は、「ブラック部活」の紹介(注2)、高校野球での投手の連投・投球数過多に関連する動き(注3)、2018年6月の大学アメフト部の大会での危険なプレーの事件(注4)などを取り上げてきた。
日本の文部科学省は、これらの事件や問題を受け、義務教育である中学校について改革の必要性を認め、2018年3月に文化庁によって「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が、続いて同年12月には文化部活動のガイドラインも策定された(注5)。
その後2019年1月には、中央教育審議会において、「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)(注6)」が取りまとめられた。この答申では、「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」の1つとして部活動を挙げ、ここから教師の働き方改革と部活動改革が同時に行うべきものとして政府がはっきりと認識したことを表明したと言える。

改革が必要な教師の働き方とは、時間外の業務を含む長時間労働が恒常化していること、休日を含む時間外勤務がほぼ無償であること、左記の多くの時間が部活動のための業務に充てられていることなどだ。
更に2020年9月に「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」文部科学省が具体的なスケジュールを提示し、その中で休日の部活動は2023年度以降、段階的に地域移行が目指されることが明示された(注7)。2021年にスポーツ庁が運動部活動の地域移行を促進するために有識者会議を開いて検討を進め、同有識者会議は、当初2022年7月を予定していた提言を5月に前倒しすることを2022年1月26日に発表している(注8)。
2021年に文科省が行ったのが3月26日に発表した「#教師のバトン」プロジェクトだ(注9)。文科省が教師という仕事の魅力を現場の教師に発信してもらおうとTwitterなどのSNSを使って始めたのだが、現場の教師や教育関係者が信じられないような劣悪・過酷な労働環境について訴える場となり、いわゆる「炎上」した。文科省の目論見は外れたものの、文科省が投稿への回答を行ったり、4月の衆院文部科学委員会で取り上げられたりと、働き方改革推進の大きな役割を担ったと言える。
さて、ずっと部活動問題をフォローしてきた私としては、日本の学校での部活動が本来の意味・意義から外れてうまく機能しないようになってしまったのはなぜなのか、調べれば調べるほど混乱してしまう。
日本の教育制度、日本人の教育や学校・教師に対する考え方、教師の働き方や資質・教育への熱意、スポーツや文化活動・「ボランティア」についての意識、部活動に関連した組織や大会運営の方法などなど、複雑で根の深いことが絡み合っている。
もともとは子どもたちに学校で勉強以外の色々な経験をさせることでより豊かな人間に育てることを目的として、教師が熱心に取り組んできたことが、なぜここまで歪んでしまったのだろう。トロントでは学校の部活動も、地域のスポーツや文化活動も、子どもたちは実に楽しそうに参加し、年をとっても趣味として自ら続けたり指導者の側に回ったりしていたのを見ていたが、日本と何が違うのだろう。
トロントでの経験は、自分の子供たちを取り巻く、ごく限られた経験で、おそらく恵まれた環境の家庭や学校・地域の中での9年間に過ぎず、制度的なことまで知っているわけではない。それでも、学校でも地域でも本当にスポーツを楽しんでいる人々を知っている私は、日本の子供たち、先生たち、保護者たちが、同じようにスポーツを楽しむことができるようになるにはどうすればよいのか、その助けになるなら、もう少しトロントのことも調べてみようと思うこの頃である。
注1:「桜宮高校バスケットボール部体罰自殺事件」ウィキペディア
注2:拙稿2018年10月3日付
注3:同2014年9月19日付、2019年2月1日付、2019年10月3日付参照
注4:同2018年6月3日付
注5:本ガイドラインでは高校についても適用するように言及している。
注6:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/sonota/1412985.htm
注7:https://www.mext.go.jp/sports/content/20200902-spt_sseisaku01-000009706_3.pdf
解説:「打刻ファースト」 2020.9.25付/10.9更新
https://www.ieyasu.co/media/holiday-club-activities/
:「部活の地域移行は進むのか? 実現するために必要なこと」妹尾昌俊
https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/20200909-00197370
運動部以外の文化部においても、この動きは注目・検討されている。
「部活動の地域移行に関して」全国学校軽音楽部協会 https://keionkyo.org/210225-19/
注8:「部活動 地域移行の課題議論 スポーツ庁有識者会議が5月提言へ」NHK記事
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220126/k10013451491000.html
注9:「#教師のバトン」プロジェクトについて 文科省
https://www.mext.go.jp/mext_01301.html
反響など:朝日新聞「「#教師のバトン」 やまぬ大変さ訴える声 文科省は1カ月発信なし」(有料記事です。全文は読めなくても最初に概要のまとめがあります)