消えた先住民女性たち

文・三船純子

この夏British Columbia州のVernonから Alberta州の Jasper を経て、Yukon 州のWhitehorseに向かう旅をした。広大に広がるカナディアン・ロッキー山脈の雄大な自然に圧倒されながら、カナダの広さを再確認することができた。

旅の先々で先住民の歴史や文化に触れる機会が多々あった。Whitehorseを去る前日に下記のCBCの記事が目に止まった。この地で55年前に起きた先住女性の殺害事件への警察の捜査の杜撰さを指摘する記事だ。記事を読んだ前日にWhitehorseのダウンタウンにある先住民文化会館(Kwanlin Dün Cultural Centre)を訪れ、行方不明または殺害された先住民女性達を追悼祈念する「私たちの同胞シスターズと共に歩む」という作品を目にした。文化会館の小さな裁縫グループ(Sewing Circle)から始まった小さな作品が、その後助成金を得て、遠隔地在住の女性達が参加するコミュニティー参加型のアート・プロジェクトに発展していったのだ。作品制作に参加した女性達の思いに心を馳せた。作品のテーマでもある行方不明そして殺害されて消えていった先住民の少女や女性の被害者(MMIWG: Missing and Murdered Indigenous Women and Girls)への不当で差別的な取り扱いについては、斎藤文栄さんも過去に二度（2019年10月掲載、2014年6月掲載）言及されている。

2016年のカナダ国勢調査では1940年から2020年の間に行方不明になった人々のほぼ45％が先住民であることが判明している。カナダで殺害されたり行方不明になったりした先住民女性の正確な数は把握されていないようだが、その数は4000人以上と推定され、殺人事件の半数は未解決のままだという。またカナダの先住民族女性は、非先住民族女性に比べ4.5倍も殺害される確率が高いとされている。殺害された先住民女性の割合が不釣り合いに高いだけでなく、これらの犯罪における加害者の告発率は、非先住民の被害者の場合よりも約30％も低い。

トルドー自由党政権が当選した2016年、「行方不明および殺害された先住民女性および少女に関する全国調査」の実施を発表した。全国調査には、政府、機関、産業、社会サービス提供者、そしてすべてのカナダ人及び231の組織団体へ向けられた被害者女性と先住民コミュニティーの正義実現の為の要請が含まれている。2021年6月3日に発表された「先住民女性、少女、及び2SLGBTQQIA+＊の人々の行方不明と殺害に関するカナダ政府の行動計画」で、政府は22億ドルの予算分与を約束した。その行動計画には先住民女性が経験する問題を啓蒙するキャンペーン、女性や少女の行方不明や殺害の未解決事件を調査する特別調査委員会の設置などが含まれている。

先住民の被害者家族やそのコミュニティーが、カナダ社会と共に先住民の女性や少女たちが安心してくらせる社会造りを目指し、先住民コミュニティーが抑圧や差別や殺戮という暗い歴史をヒーリングさせてゆくのには、とても長い時間が必要だと感じている。

＊2SLGBTQQIA+: Two-Spirit, Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender, Queer or Questioning, Intersex, Asexual, and additional sexual orientations and gender identities.

https://www.cbc.ca/news/canada/north/tootsie-jimmy-charlie-rcmp-apology-whitehorse-1.6548609

https://ecampusontario.pressbooks.pub/theballisinyourcourt/chapter/missing-and-murdered-indigenous-women-mmiw-in-canada/#:~:text=MMIW%20Task%20Force%20Rally.,et%20al.%2C%202018

https://mmiwg2splus-nationalactionplan.ca/

https://www.rcaanc-cirnac.gc.ca/eng/1590523702000/1590523850562