理系型の英語、文系型の英語 by 広瀬直子

何かの技能を向上させようとするとき、料理人なら味覚を磨き包丁さばきの技を鍛える、スポーツ選手なら瞬発力や筋力を鍛えることなどが必要で、そのための特化したトレーニングを積んでいくことで上級者になる。そして個人個人に有効なトレーニングはさまざまだ。

語学習得はどうだろうか?私は25年以上語学関係の講師をしてきたが、大人の語学学習ほど、有効なトレーニング方法に個人差があるものを他に知らない。

また、酔っ払うと「間違うと恥ずかしい」という気持ちが減るのか、外国語に妙に「流暢」(?)になる人がいるぐらいだから、語学と性格の問題は、深遠な謎に包まれている。

ベストの英語学習法は人によって異なる。「これが一番」のメソッドなどというものは、実はないので派手なタイトルに騙されないで。

ベストの英語学習法は人によって異なる。「これが一番」のメソッドなどというものは、実はないので派手なタイトルに騙されないで。

第二言語習得に有効とされてきたトレーニングメソッドは、主流、マイナー、実験的、裏技的なものを含めると枚挙に暇がなく、心理学や社会学も関わってきて、考えるだけで気が遠くなるほど果てしないものだ。そして、「このメソッドが万人に適している!」という証明された唯一のものはない。私は、どんな学習法が自分に一番合っているかは、アスリートのトレーニングと同じで、その時々の気分や体調にさえ左右されると思っている。
ただひとつ、私の分野である英語学習の場合、「理系型」と「文系型」に分かれるのではないかと思ったことが何度かある。身に付ける能力は最終的には同じようなものだが、それにいたる段階、特に英語表現を理解するまでの段階の違いである。

私がこれまで担当した生徒さんで、工学部卒のエンジニアなど「理系型」の典型の方は、英語の文章をまず「問題」と見立て、線の上を辿るように段階を立てて単語を知り文法を理解して、解答に至ろうとした。場合によってはいくつかの可能性を考え、その中から消去していく消去法を取る、「線上段階的解決型」だ。

この段階のプロセスが脳で進行中に、私が手助けしようと「この文法はですね・・・」などと途中で口を出そうものなら、思考計画が乱れるのか、相当なストレスを感じるようだ。おそらく、すでに知っていることを言われたか、後の段階で聞こうと思っていたことを早々と言われてしまったので段階の組み換えが必要になるかのどちらかで、むっとされ、私が思わず「すみません」とあやまってしまう。

一方、文系型の人は英語を読んだり聴いたりしたらざっと全般的に概念やイメージを思い浮かべようとし、英語力不足でそれができなければ、単語を調べ、それでもできなければ仕方なく構文と文法を知ろうとする「全体的ふわふわ解決型」。こういう人は、「この文法はですね・・・」と私が口出ししても、ぼんやりしていた概念に論理を与える手助けになるようで、「なるほど」と言うことが多い。

理系型は、問題を解決したことに尋常ならぬ喜びを感じる傾向があるので、それを動機付けに使うといいかもしれない。その一方で「正確な」解答に至らないことが続けばひどく落ち込んだり、コツコツ粘り強くがんばってきたのにある日ポッキリ挫折し、これを経験すると、再度学習を開始することをガンコに拒絶しがちであるようだ。

「全体的ふわふわ解決型」は少々わからなくても「まあいいか」となんとなくあきらめることができるので、簡単に学習を休んだり、また始めたりする傾向があるように思う。ある日「私はもう英語なんてやらん」と宣言した人が、次の日には機嫌良く英文を聞いてリピートしたりしている。

理系型は系統立てて学習しているので、知識に漏れができにくい、文系型は全体多岐にふわふわと「理解」しているから全体像を「なんとなく」つかむスピードが速い。どちらも一長一短だが、言語の解釈や定義にはひとつの答えがないことが多い、と言う意味では文系型の人の方がストレスが少ない可能性はある。

たとえばperiodically という単語は文系型の人は「時々」、理系の人は「周期的に」という意味で使いう。ここで、文系型の人が理系の意味を知ったら、「ああ、数学的にはそうなのね」で終わるが、理系の人は「時々はoccasionallyだろう、紛らわしい」となりがちだ。どちらがストレスが少ないかは明らか。

私の経験では「理系」型は少数派で、全体的には「文系」型の人の方が多かった印象だ。

もちろん、両方の要素を持っている人もたくさんいる。おそらく理想的なのは、文法学習では理系型アプローチを取り、時間のないときの読解では文系型アプローチを取る・・・などと、使い分けることだ。

しかしこれは性格やそれまでの教育の問が絡むので、変えるのは難しいもの。大人にとっての語学学習では、どちらでもやり易いほうで英文理解に至れば良い(わけで)、いくつかのメソッドを知っておいて、それを臨機応変に組み合わせたり、使い分けるのが一番。

宣伝になって申し訳ないが、自分に最適のメソッドの見つけ方は、拙著「35歳からの「英語やり直し」勉強法に」説明している。よろしければ、お読みください。(本記事は同著より一部引用)

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