ミソジニー(女嫌い)は世界共通?日本社会のミソジニーは海外に通用するか by 斎藤文栄

TIFF(トロント国際映画祭)が今年も華々しくトロントで開催された。(わがG8のメンバーもプログラマーの一人である)この映画祭の良いところは、街をあげての歓迎ムードと、(超人気作を除けば)チケットの入手が容易であることだと思う。

今年もさして計画していなかったにも関わらず、計3本を観た。今回はそのうちの一本、真夜中に見た日本映画についてコメントしたい。TIFFでは、ミッドナイト・マッドネスと銘打ち、毎年何本か、夜中の12時から公開される。真夜中だけあって観客のノリも異様で、上映前から劇場内では叫び声が飛び交う。この雰囲気が好きで毎年ミッドナイト・マッドネスに必ず来ているという人もいるほどだ。

「Tokyo Tribe」上映を待つ人たちによる長蛇の列。

「Tokyo Tribe」上映を待つ人たちによる長蛇の列。

TIFF開幕日のミッドナイト・マッドネスには、日本映画のバトル・ラップ・ミュージカル「TOKYO TRIBE」が選ばれた。開催前から外には長蛇の列。日本から監督やプロデューサー、出演者も駆けつけ、上映前の挨拶でもラップを披露するなど会場が異様に盛り上がり映画が始まった。・・・が、残念なことに映画が進むにしたがって観客がだんだんと盛り下がるのが肌で感じられ、笑いもマバラ・・・。終了後にはなんだかまんじりともしない顔をして会場を後にする人が多かった。かくいう私もその一人。

翌日、何が良くなかったのだろうかと寝不足の頭で考えていたら、TIFFのレビューマガジンで以下のように批評されているのを発見した。

“Unfortunately, what starts off as a bold canvas quickly becomes dull and garish. The unremittingly juvenile and misogynistic rhymes of the gangster-rap lyrics leave us trapped in a world in which everyone is just different shades of unappealing.”(Tim Grierson, SCREEN; Issues 2, Sep. 6, 2014, Screen International, p.12)

残念なことに、大胆な構想で始まった物語は、すぐに中身の無い見掛け倒しの展開となった。ギャング・ラップの歌詞は子どもっぽい女嫌いの韻に終始しており、この映画に出てくる登場人物はどれもこれも(程度の差こそあれ)あまり好きになれない魅力の持ち主で、観客は取り残された気分になる。(筆者、意訳)

Misogynistic – ミソジニー (女嫌い)って、こういう風に使うのねと感心するとともに、この「ミソジニー」という表現が私の抱えていたモヤモヤ気分を晴らしてくれた。そう、この映画には女性を物としか扱っていないミソジニーの要素が全面に流れているのだ。その女嫌いの空気が、私を含め、トロントの観客に居心地の悪さを与えたのではないだろうか。

開演前。インタビューで盛り上がる会場

開演前。インタビューで盛り上がる会場

内容はぜひご自分で確かめていただきたいが、女性がやたらに胸を見せたり、バトルシーンではパンチラ(死語)が多かったり、少女が意味不明に「犯して~」というようなことを言ったりする度に、私は眩暈を覚えた。なので、カナダでの反応にちょっと「ほっ」としている。

日本社会のミソジニーについては、社会学者の上野千鶴子氏の著書、その名も『女ぎらい—ニッポンのミソジニー』(紀伊國屋書店、2010年)に詳しい。「ミソジニー」という言葉から日本社会を紐解いてみると妙に納得が行くことが多くて困ってしまう。

日本ではまだ浸透しきれていないこの概念、気づいてみれば海外ではよくメディアで使われている。

先日も、CBC(カナダ国営放送)ラジオがビデオゲームのプログラマーにはなぜ女性が少ないのかを取り上げた番組で、最近ゲーム・プログラマーの間で「ミソジニー」が大きな問題となっていると伝えていた。

そういえば、先日、国連で女優のエマ・ワトソンが男女平等に男性の参加を促す演説したところネットで脅迫を受けた件に関する記事においても「ミソジニー」という言葉が使われていた。(その後、この脅迫はいたずらだったことが判明したが、女性が生意気なことをいうと叩かれるという事の本質は変わらない)男性記者が「男性もミソジニーに対して立ち上がろう!」と呼びかけた記事であったのだが、はたして日本のメディアがこのレベルに到達するのはいつのことだろうか。

英紙ガーディアンのエマ・ワトソンへの脅迫に関する記事http://www.theguardian.com/commentisfree/2014/sep/24/men-stand-together-emma-watson-misogyny