トロント市長選 by 空野優子
2014年10月27日、トロント市長選が行われた。トロント市長は、カナダ最大都市の首長であり、また今回の選挙は、スキャンダル続きのロブ・フォード現市長(*)の後継者選びの機会として、いつになく注目を浴びた。
最終有力候補として残ったのは、3候補である。元オンタリオ州保守党党首のジョン・トーリー氏、元トロント市議会議員で国会議員の職を辞して出馬したオリビア・チャオ氏、そして、ロブ・フォード現市長からたすきを受けた、現市長の兄でトロント市議会議員のダグ・フォード氏である。
もともとロブ・フォード市長は4年前、「税金の無駄遣いをなくす」ことを誓い市長選に勝利した。その市政の継続を訴えたフォード兄に対して、対立と混乱に陥った市政の立て直しを約束した保守派のトーリー氏と、革新派として福祉の充実を訴えたチャオ氏が挑み、選挙期間中数々の討論が開かれた。

左からフォード氏、チャオ氏、トーリー氏。http://www.cbc.ca/news/canada/toronto/toronto-election-rob-ford-s-legacy-sparks-tense-exchange-at-scarborough-debate-1.2808325より転載。
山積する市政の課題の一つで目玉となったのが地下鉄・バスなどの公共交通機関整備計画である。トロントは、交通インフラが市内・近郊の人口増加に追いついていない。地下鉄とバスで通勤する私の経験から言っても、頻繁に遅れ、点検だのなんだのでしょっちゅう運休するTTC(トロント・トランジット・コミッション:市内の地下鉄、バス、路面電車を運転する)は、はっきり言って不便である。なので、各候補がどのようなビジョンを持っているのか、市民の関心は高い。
結果は、大方の予想通り、40.3%の票を獲得したトーリー氏の勝利に終わった。フォード弟時代のごたごたにうんざりし、といって政策面で大転換となるチャオ氏を支持するのはちょっと、、、と感じる市民にとって無難な選択だったのだろう。ちなみにフォード兄は33.7%で2位、当初期待されたチャオ氏は23.2%の3位に終わった。
ひとつおもしろいデータがある。候補者の得票率を市内の地区別にみると、投票パターンが住む場所によってはっきり分かれているのである。中心部のダウンタウンと北部はトーリー氏支持層が多いのに対して、郊外の東部、西部ではフォード氏支持が圧倒的である。実際、ダウンタウン近くに住む私の周りでは、フォード氏を支持する声はほとんど聞かれないし、通りを歩いても、フォード氏支持の看板は見かけない。それでも騒動続きのフォード兄弟が郊外で一定の支持を保つのは、バスや路面電車などの(車の邪魔になる)路上交通より地下鉄建設を支持し、(自動車や住宅関連の)減税などを訴える政策が、家付き、車付きの郊外型生活に合っているからなのであろう。ちなみに環境保護に熱心で、道路の自転車レーン増設などを訴えるチャオ氏の支持はダウンタウンにほぼ集中している。

トロント市内地区別の投票結果。青がトーリー氏が過半数を得た地区、赤がフォード氏、緑がチャオ氏支持の地区。http://news.nationalpost.com/2014/10/27/toronto-election-results-2014-a-ward-by-ward-breakdown-of-the-vote/より抜粋。
現在のトロント市は1998年に、それまでの旧トロント市と周辺の5市が合併してできた。私が移住する前のことなので詳細は知らないが、大部分の市民は当時合併に否定的だったと言う。もしこの合併がなく、各地区がそれぞれの市民の声を代表する市長を選んでいれば、こちらの地方自治は大変違う形になっていただろう。
なにはともあれ、この選挙で市議会が正常に戻り、交通網整備が早く進むことを願いたい。
*ロブ・フォード現市長のスキャンダルは枚挙にいとまがない。市長になった2010年からの4年間をみても、数々の暴言、酔っ払い騒動につづき、2013年5月にクラック・コカイン吸引疑惑が起こると、一旦は否定したものの、半年後トロント警察が証拠のビデオを押収したと発表するや、一転麻薬使用を認めた。そのためトロント市議会は市長の権限をほぼすべてはく奪することを決議。その後2014年4月には新たに泥酔状態のビデオが表に出ると、直後にリハビリ施設に入院し、二か月市長職を休職。こんなフォード氏だが、政治家には珍しい庶民的な話し方と、一に減税、二に減税を唱える政策もあって、(私にはとっても不思議なことに)一定の支持を保っている。ちなみに、ロブ・フォード氏は、今回癌治療のため市長選挙こそ出馬を取り下げたが、代わりに市議会議員として地元トロント西部のエトビコー地区から立候補し、余裕の当選を果たした。