「ベースボール」は身近な楽しみ

文・鈴木典子

2015年9月15日現在、トロント・ブルージェイズはアメリカン・リーグ東地区のトップを走る。後半の進撃は目を見張る快調さで、ファンたちは20数年ぶりのプレーオフ進出、更にはワールドシリーズ優勝を、夢ではなく、現実の目標として期待している。米国の大学に進学した息子たちも、ジェイズがワールドシリーズ(注)に出たら、絶対学校を休んで帰ってくる、と楽しみにしている。

bluejays

ブルージェイズは1977年に創設、モントリオール・エクスポズが2005年にワシントンに移籍して以来、米国以外で唯一のMLB(メジャーリーグ・ベースボール)チームである。所属のア・リーグ東地区5チームには、ニューヨーク・ヤンキース、ボストン・レッドソックスという常勝チームがおり、1992-3年の連続ワールド・チャンピオン以降は、地区優勝からも遠い結果に低迷しているが、それでも、ファンは変わらず応援しており、近郊の都市での試合では、ファンの人数はホームチームより多いと言われるほどだ。

日本でも野球は国民的スポーツとして、小学生から男の子なら誰でも一度はやったことがあるといわれるほど。高校生の全国大会である甲子園大会は、地元の代表として県を挙げて応援される。プロ野球にも熱烈なファンがおり、その盛り上がりは相当なものだ。しかし、カナダと日本では、野球との距離感が違うような気がする。日本では高校野球こそ、地元の青年の活躍を応援するが、プロ野球はあくまで自分とは違う世界の選手の活躍を応援するものだ。しかし、北米では野球はもっと身近な存在であるような気がする。

その理由としては、次のようなことが考えられる。

MLBがその下にAAA(トリプルA)からルーキーリーグまで、7段階にわたる地元密着の選手育成組織(注)を持っていること。マイナーの下部リーグの選手は、プロと言っても給料が安く、地元でアルバイトをしながらの生活になること。アマチュアレベルでは小学生から大人まで、学校と地域の両方に野球チームがあり、老若男女を問わず、自分自身も含め、家族や多くの知り合いが現役で野球をしている生活環境であること。トーナメントではなくリーグ形式をとっており、選手の人数も試合数も多いこと。一年どころか一生を一つのスポーツにささげるのではなく、季節ごとに様々なスポーツを経験でき、柔軟に続けることができること。

baseball field日本の野球より「ベースボール」の方が、選手とファンの層と幅を広げ、プロとアマの距離を縮めている理由ではないだろうか。

メジャーリーグの試合を大きな球場に見に行くだけではなく、自分の家族、友人やその家族がプレーする試合を、週末や夏の長い夕方に、家族ぐるみでピクニック気分で応援に行くのが、ごく自然な日常なのである。

何はともあれ、ジェイズの久々の快進撃を、応援したい。Go, Jays, Go!

注:MLBには、アメリカン・リーグとナショナル・リーグの2リーグそれぞれに東・西・中三地区があり、各地区に5チームが所属する、全30チームによるプロ野球リーグである。4月下旬から9月下旬まで、162試合を勝ち抜いた、各地区の優勝チームと、各地区の2位チームのうち勝率1位と2位がワイルドカードとして選ばれ、5チームでリーグ優勝を争う。ここからがプレーオフやポストシーズンと呼ばれる。まず、ワイルドカード同士で4チーム目を選出し、4チームで争う1回戦がディビジョン・シリーズで5戦し3勝したチームがリーグ決勝に進出。リーグチャンピオンシップは7戦4勝制だ。リーグ優勝チーム同士の最終決戦が、ワールドシリーズと呼ばれ、ブルージェイズは1992年・1993年に連続チャンピオンに輝いている。

注:マイナーリーグとは、メジャーリーグとは独立して運営される北米のプロ野球リーグのうち、MLBの傘下に入る協定をしているものを指す。AAA(トリプルA、3A)、AA(ダブルA、2A)、アドバンスドA、クラスA、ショートシーズンA、ルーキーアドバンスド、ルーキーリーグの7クラス。ほかにも、MLBがドラフトの対象とする選手を育成する、大学生の所属するサマーリーグ、アカデミーなどの育成リーグもある。

注:日本のプロ野球の選手数は、大体900人。12チームが一軍・二軍全体で各70人まで保有でき、そのうち28人が選手登録され、一軍のベンチに入るのは25人。その他育成選手として12チーム全体で70人くらいがいる。

一方北米では、メジャーリーガーとして登録されるのが1チーム40人(30チームで1200人)、傘下のマイナーリーグには上位6つのクラスには各30チーム程度が属し、AAAにメキシカンリーグ16チームとルーキーリーグにサマーリーグを含めて70チーム程度が属する(計230チーム)。各チームの定員は25人で、総勢6000人近い。国土の広さを割り引いても、いかに野球選手が身近にいるかが、想像できるだろう。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。