「テント・シティ」の住人たち ~ブリティッシュ・コロンビア(BC)州ビクトリア市~
文・サンダース宮松敬子
BC州の州都であるビクトリア市は、周知の通りカナダの中では一番気候が温暖である。真冬でも雪景色を見ることは珍しく、たとえ降っても一両日中には融けてしまう。
だが代わりに、冬季は雨が多く曇り日もかなりある。とは言え、これまた一日中降り続けることは少なく「今泣いたカラスがもう笑った!」と言うように天候はクルクルと変わるのだ。
そんな温暖な気候のため、エドモントン、カルガリー、ウィニペック、トロント、オタワ、モントリオールと言ったカナダ東部の極寒の街々からリタイア後に移住して来るシニアたちが多い。
確かにちょっと出かけるのに重いコートを羽織らなくていいのは楽だし、コントロールの利かないアイスバーンを車で走る怖さもない。
そんな気候が嬉しいのはシニアばかりではなく、家を持たないホームレスたちに取っても同じである。それ故にヒッチハイクをしながら、本土との間に横たわる深海、ジョージア海峡を渡っていろいろな地域から流れて来る人たちも多いのだ。

BC州裁判所を背に並ぶホームレスのテント群
当市にこのホームレス問題が浮上したのはもう随分前のことである。だがこの1、2年更に問題が深刻になったのは、ダウンタウンにあるBC州裁判所の裏庭を陣取って「テント・シティ」と呼ばれるホームレスのたまり場が出来たことにある。
もちろん、こうした公共の場にテントを張って生活をするのは法律違反である。だがそのテントの数は有に数十あり、ホームレスの数も100人以上(正確な数は掴めていないといわれる)ともなると、そう簡単には立ち退きを強いることが出来なくなっているのだ。
キャンプ用のテントを設置して寝起きする人がほとんどだが、中には廃材を使って開け閉め出来るドアを付けた小屋を建てたり、階段を作って2階建ての簡易住居を作る人までいる。
もちろんこの問題にたいしてBC州もビクトリア市も、手をこまねいて何もしていないわけではない。だがここまで問題が深刻化してくると、安易な手段で問題を解決するのはとても難しくなっている。
公園の端には簡易トイレが設置され、近くにあるホームレスの互助機関でシャワーを浴びることも出来るとは言え、日々の生活が不潔極まりないことは言をまたない。

公道にも張り出して住処を獲得
雨の多い冬場は土がぬかるみ、容赦なく染み込む雨水でテントの中は冷たくジメジメする。そのため、慢性の持病に悩まされている人も多く、加えて薬物中毒症やメンタルの問題を抱えるテント住民も1人や2人ではない。
またドラッグ絡みの傷害事件、女性に対する暴力事件、はたまた売春問題も浮上したりなど、夜中に警察が出動することもままある上、キャンプファイアーが常に焚かれ、夜中はロウソクがともされることから、警察も消防も神経を尖らせている。
以前は閑静な住宅街であった近隣の住民たちが、そんな状況を憂えない分けはなく、「Mad As Hell Victoria(ビクトリアの猛烈に憤怒するグループ」と称するグループを立ち上げた。彼等は「テントの住民には沢山の税金をつぎ込んでいるのに反して、近隣の住民を守るための警察を始めとする公的機関の活動は十分ではない」と怒りをあらわにしている。
事実「沢山の税金」は使われているのである。
一番顕著な例は、幾つもの互助機関を巻き込み現在使用されていない数ヶ所の建物をシェルターとして改築し、仮住まい用の設備を整えていることだ。中には2,3百万ドルも払って州が建物を買い取り、同じように居住可能な状態にしている。
しかしシェルターはシェルターであって永久に住める住宅ではない。彼等に一番必要なのは低家賃のソーシャルハウジングであり、今後の生活の建て直しのための援護であることは誰にも分かることだ。
2月末には、州から何回目かの強制立ち退き命令が出て、翌日には「公園が空っぽ」になる筈であった。が、当日はまるでお祭り騒ぎの様相を呈し、NPO、NGO、各種の教会など等のサポーターたちによってテント住民は守られた。
それから一ヶ月半経った4月半ばの現在でも、幾つものテントはいまだに存在し、何人ものテント住民が同じ公園に住み続けている。その数は現在も120~130人と言われるが、常に流動的で関係者もはっきりとした数字はつかんでいないようだ。
それでは根本的な問題の解決にはどんな手段があるのだろうか。
ここに来ての大きな動きは、BC州裁判所が立ち退き命令を却下し、代わりに少なくとも9月末までは住み続けられる許可を出したのである。と同時に、州政府が一日24時間/週7日間管理するサポート要員を現場に送り込み、テント住民たちの今後の動向について力を貸すことになった。
はてさて今後どのような方向に向かって行くのか、大いに注目されるところである。