ローカル・アート
文・ケートリン・グリフィス
トロントにThe Beachザ・ビーチ (またはBeachesビーチズ)という呼び名で親しまれているエリアがある。

Helen Billett
その昔、トロントの開拓が始まったころ中心街より東にあるこの地域は夏の避暑地として知られていた。競馬場、遊園地があり、そして何より広く連なる砂浜が人々を引き付けてきた。2016年現在、競馬場も遊園地もなくなったが毎年砂浜でビーチバレー、湖上スポーツ、日光浴を楽しむために訪れる人は後を絶たない。(湖の水はきれいだが泳ぐには冷たすぎるので水泳を楽しむために来る人は少ない。)週末などはコーヒーを片手に、もう片手には犬のリードをもちボードウォークを歩く人々でにぎわい、そのボードウォークと平行に設けられている自転車道では自転車やローラーブレイドで走り抜ける人たちも多く、短いトロントの夏を満喫している。
今でもこのエリアを「村」感覚として愛着を持っている住民もたくさんいる。昔の面影を残しているコッテージ風の家も散策中たくさん目につく(ちなみにかの有名なピアニスト、グレン・グールドの生まれ育った家もある)。
便利なうえ、湖の近くとあり、自然との共生を目指す多くの「アート」職人も住み着き活動的なアート・コミュニティを永年にわたり構築している。
ビーチ・スタジオ・ツアー(Beach Studio Tour)もその活動の一つだ。これは20軒以上に及ぶアート職人さんの家を直に訪れる無料散策ツアーである。1994年に始まり毎年春と秋の二回行われている。週末の金曜日夕方から日曜日の午後まで、アート職人達はビーチにある自らの家やスタジオを開放する。おつまみなどを用意し、訪れる友達、ご近所さん、アートに興味のある人たちに自分のアートを紹介するといった具合だ。リラックスした環境のなか職人さんと会話ができ、その人のアートに触れる機会が得られるというものだ。もちろん気に入った作品があれば購入できる。
ジュエリーデザイナーから、革製品職人、画家でも油絵、水彩絵、マルチメディアなど多様であり、写真家や彫刻家もいて幅広い。アパート住まいや家が狭いというアート職人さんは、「お招きアート職人」というシステムを利用し、他のアート職人が開放している一軒にお邪魔し展示をする。おかげで訪れた人も2人のアート職人とその作品に出会える。

Teresa Miller
このビーチ・スタジオに参加している知り合いのアート職人が二人いる。家をその週末限定でギャラリー展に変身させるのに相当なストレスがあると言うが、終わった後の達成感がたまらなく、参加をし続けているらしい。彼女たちが共通して言うには、「売り上げを期待していてはがっかりするだけだが、やはりアート職人として自分の作品に興味を持ってもらいたいので参加している」また、その場では売り上げに貢献しなかったとしても、別の機会に思い出してオーダーしてくれるといったケースも多いらしい。購入する決断をするのに数年かかる人もいるので、毎年参加しつづけているとのこと。
開放時間は土、日曜日は昼間だが、金曜日だけは夕方からなのでちょっとしたパーテイーとなるらしい。お酒を用意している所も多いので、ただ酒のために一軒一軒を梯子するといったちょっとよろしくない訪問者もいるが、それもそれで楽しいと彼女たちは言う。
また、近所に住んでいるが話をしたことのない人たちが集い会話できる場所にもなっており、アートに触れ合うだけでなく新しい出会いの場として喜んでもらっている。地域に貢献できているという実感もあり、それがうれしいと彼女たちは言う。
その日の気候によって変わるため、一日の訪問者は30人から100人と予想が難しい。ただ、アート好き、もしくはビーチズが好きな人が訪れるので不審な人が来たことはないとのこと。金曜日夜の酔っ払いは別として・・・。
春か秋の週末、一度ビーチズに足を運んで散策がてらアートツアーを楽しむのはいかがでしょうか?自分の趣味に合った作品とアート職人さんに出会えるかもしれません。
公式ウェブサイトはこちら