国連から見たカナダの女性差別とは

文・斎藤文栄

女性差別撤廃委員会のカナダ政府に対する勧告

unblg

Palais des Nations, Geneva /UN Photo

先日、国連の女性差別撤廃委員会から、カナダ政府に対し、女性差別に関する改善点が示された。

ん? カナダに女性差別なんてあるの? と思う方もいるかもしれないが、G8でも取り上げてきた先住民や性暴力の問題など、意外に深刻な女性差別を抱えている。

ちなみにWorld Economic Forumが毎年発表しているGlobal Gender Gap Index では、144ヶ国中35位(2016年)と、意外に良くない。健康・生存に関するランクが低いのが影響しているようだ。(日本は111位)

では、国連はカナダの女性差別をどう見ているのだろうか。

今回、カナダ政府に対する勧告(最終見解Concluding Observation)として特徴的だったのは、やはり先住民女性やマイノリティ女性の抱える問題への関心である。とくに先住民女性の殺人・失踪事件については、同委員会はカナダを訪問し報告書を発表しているだけあって、その後の取り組みが遅れていることに不満が示された。ところで、委員会審査の前には市民社会からのヒアリングが行われる仕組みになっている。私も中継でNGOの主張を聞いていたのだが、多くのNGOがトルドー政権に代わってもいっこうに進まない先住民女性の殺人・失踪事件への取り組みに不満を表明していた。今回の勧告は、こうしたNGOの声を汲み取ったものでもある。

その他、カナダ政府に対しては、以下のような点が取り上げられた。*

  • 男女賃金格差の解消
  • 貧困の解消
  • 廉価なチャイルド・ケアの提供(先月のG8の記事にもあるように、カナダは意外とチャイルド・ケアの費用が高い)
  • 法律扶助の充実
  • 性暴力の撤廃

これら個々の課題において、委員会は、特に差別を受けているグループ(先住民をはじめアフリカ系カナダ人、移民、難民、難民申請者、障害を持つ女性、ひとり親、レズビアン、バイ、トランス、インターセックスなど)をひとつひとつあげ、教育、雇用など様々な領域において、これらのグループに対する取り組みが必要だとしているのも目を引いた。

女性差別撤廃委員会の委員長は日本人女性

ところで現在、女性差別撤廃委員会の委員長は林陽子さんという日本人の弁護士が務めている。委員長は、実力があり、かつ委員からの信任がなければ選出されない大変名誉な職である。中継を見ながら、カナダの審査を小気味よく進行していく林さんの姿に、同じ日本人女性として非常に誇らしいものを感じた。ちなみに林さんの英語は少し日本語アクセントのある英語であるが、そんな点も好意的に映る。私は、この11月ジュネーブを訪問した際、林さんにお会いすることができたのだが、委員会会期の最終週ということで、色々な調整に追われ大変お忙しくされていて、文字通り、国連の中を駆け回っている印象を受けた。

ところが最近、この林さんを日本国内で右翼団体と一部の政治家が批判の対象にしているという。カナダ同様、日本政府に対しても今年3月に勧告が出ているのだが、その内容が気に食わず、委員長の林さんを糾弾の対象としている。そもそも当該国の委員は中立性・公平性のため自国の審議には一切関われないという決まりがある。それは委員長も同様で、林さんも今回の日本審査には関わっていない。かつ、批判の内容も、条約に沿って審査されたもので、以前の勧告内容とほぼ変わらない。それを気に入らないといって個人を攻撃するのはいかがなものか。

日本政府は、林さんの委員長就任が日本にとっても「重要な意義を有している」と称えているし、日本審査においても彼女が委員長として活躍していることを誇らしく思っているとの声明を読み上げている。

私は、林さんのように、海外で、そして日本国内で活躍する女性がもっともっと増えれば良いと願っている。そうすれば日本社会のおかしな女性の人権に対するバッシングもなくなってくるのではないだろうか。カナダの女性差別が意外に深刻でも、カナダではこういう批判は起きないだろうな、とカナダと日本の社会の人権意識の差にため息が漏れた。

*ここでは例示列挙にとどめている。より具体的な勧告内容については、原本にあたってほしい。女性差別撤廃委員会(CEDAW)からの最終見解(勧告)

http://tbinternet.ohchr.org/_layouts/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CEDAW%2fC%2fCAN%2fCO%2f8-9&Lang=en

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。