カナダの新10ドル紙幣
文・ケートリン・グリフィス

Viola Desmond, photo from Wikipedia
デズモンドさんの小さな社会への抵抗が、カナダ黒人の市民権運動に連なったと言われている。そのきっかけとなった事件は1940年代、当時30代の彼女が映画上映中に無理やり映画館から連れ出され法令違反で逮捕されたことからはじまる。
デズモンドさんは映画を観ようと思い映画館内で見やすい席に座った。ただそこは白人専用席。当時「白人席」「その他の人種」席があるのは「まぁまぁ 」「そんなもんだ」とされていた時代。彼女はその白人席に座ったために逮捕され、一晩、監獄に入れられた。
ヴィオラ・デズモンドさんは1914年にノバスコシア州ハリファックスに生まれた。この事件が起きたとき彼女は、ビジネスの経営者及び美容師として活躍していた。白人席に黒人が座り映画館から追い出された人はきっと他にもいるだろう。ただデズモンドさんはこのケースを裁判沙汰にした。結局は負け、彼女はノバスコシア州を離れることとなり、50歳の若さで亡くなった。しかし紛れもなく、彼女の「これはおかしいだろう」という素直な疑問と訴えがカナダ全土に伝わり、偏見に満ちた裁判結果と相まって公民権意識が急激に高まった。
2010年ノバスコシア州政府はデズモンドさんに「死後赦免」を与える措置を取った。そして来年には彼女の肖像が10ドル紙幣を飾る。
デズモンドさんのように疑問を持ち、生活している社会を見直すことが、時には必要ではないだろうか。今なお、メディアから発信 される情報に社会は受動的になりすぎてしまっている。「これはおかしい」と見抜く心のゆとりと、自分自身で物事を把握し、考え、疑問に思うことを忘れないことが大事ではないだろうか。

Ottawa, photo from Ottawa Tourism
いくら理不尽であったとしても人は「恐怖」概念が膨らむと簡単にそれを「憎しみ」にかえることができる。20世紀の歴史に話を限定しても 、これは一目瞭然だ。「憎しみ」からいい社会は生まれない し経済成長や人々の安定した仕事や生活にはつながらない。この事はカナダの現首相ジャスティン・トルドー も機会あるごと声高々に主張している。欧米も日本も恵まれた国々である。しかし女性を尊重せず、しかも「性」の対象としてしか考えない人が政権を握り、さらに固定観念にとらわれ一方からしか物事を考えない人たちが教科書や法律を考案し続けていく限り、平等な社会どころか人権問題の前進は遠のくばかりである。
ヴィオラ・デズモンドさんは、エリザベス英女王以外では初の女性でカナダ紙幣を飾ることとなる。この 事実に気づきもしなかった自分に驚いた。
新しいカナダ10ドル紙幣は平等社会を目指し前進しようとする現れなのだろうか?
とりあえず、私は前向きにそう解釈することにした。