日本人の助け合い精神と制度~子育てと介護に際して

文・鈴木典子

現代の日本社会での大きな課題に、高齢者の介護と子供の保育がある。制度はあるのだがうまく機能しておらず、「老々介護」や「保育園落ちた」などの問題が話題になる。どちらも、家族が行うべきと思うことを、職業とする他人や施設に託すことに、精神的、社会的抵抗があるところに、うまく機能しない一因があるのではないだろうか。

高齢者の面倒を見るのは子供や孫であるべきだ、親が子供を育てるのは当たり前、仕事より子育ての方が大事、さらには他人に任せるなんてかわいそう、という意識だ。家族が家族を支えるのは当然であり、その場合は無償で行われるのが普通だ。従って、お金を払って誰か家族以外の人にしてもらうのは、恥ずかしいことだとか、もったいないとか、家族として失格だとか、という罪悪感も生まれる。

かつての日本の社会は、地域での人のつながりが強かった。江戸時代の五人組のように、地域のつながりを制度として政府が利用したこともあった。自治会制度、PTAなどが、今も生きる人のつながりだろう。コミュニティが機能していれば、育児も老人介護も、ご近所に声をかけることで手伝ってもらえた。子供は地域で育てるもの、という認識を持っている人は多いし、地元で顔も家も分かっている人がうろうろしていれば、老人でも子供でも、声をかけてくれたり知らせてくれたりする。

また、コミュニティの中では、「借り」を別の人や機会に「返す」ことができた。つまり、迷子になったおばあちゃんを家に連れ帰ってくれた近所のお母さんに対して、その家の子供の面倒をおばあちゃんの孫が袖振り合うも多生けてもらったことに対しての負担感、負い目が少なくて済んだのだ。

考えてみると、日本で昔から自然に無償で行われてきたことが、制度として有償で行われようとすると、うまく機能しないのではないだろうか。豊かな人間関係と温かい助け合いの精神が、日本人の潜在意識の中にあるために、無償でおこなわれるべきこと、家族や地域で支えるべきことを、仕事として外部の人にお金を払ってしてもらうことに対する違和感であり、罪悪感が強くなるのではないか。

地域での助け合い、支え合いが自然だった日本人の生活と社会に、より受け入れられやすいのではないかと私が思うのが、有償ボランティアである。

日本人はボランティアに対する意識が低いといわれることがある。日本人にとってボランティアとは、「厚意から空き時間にする『お手伝い』」といったイメージだろうか。話がずれるが、トロントでボランティア経験が履歴書に書けたり、ROMのボランティアになるためにたくさんの課題を提出し、厳しい面接を経て採用されるものだと聞いたりしたときに、印象が違うと思ったものだ。トロントの職場では多くのボランティアにお世話になっていたが、もちろん強制ではないのでキャンセルされることもあるが、依頼された業務を支える大事なスタッフであり、自分がいないと迷惑をかけるという意識や、仕事へのプライドを持っている人が多かったような気がする。

話を育児・介護に戻そう。私がカナダに来る前に住んでいた東京都江戸川区には「ファミリーサポートセンター制度(通称「ファミサポ」(注1)」がある。自治体が中に立って、手伝いを必要としている会員と、手伝いができる会員を引き合わせるシステムだ。中心となる活動が「保育ママ(注2)」である。「保育ママ」は正式には「家庭保育福祉員」と呼ばれる保育所に代わる役割で、自治体が運営している。原則として預かれるのは3歳まで、一日8時間まで、預かる家庭の広さ・本人の資格など、基本的な決まりがある。ファミサポでの活動はもっと気軽で、資格云々をあまり厳しくせず、子育ての終わったお母さんが子育て真っ盛りのお母さんを手伝ってあげ、その時間と手間に対していくばくかの報酬を受け取る、というものだ。東京都では「一時預かり事業」と呼んでおり、かなりの自治体が制度を持っているようだ。これは、まさに有償ボランティアと呼べるのではないかと思う。

一方、一人暮らしの父は、市のシルバーボランティアに、掃除などを頼んでいた。父のところに配達に来てくれる方はほぼ同じ方で、父とおしゃべりをして帰ったり、体調を気にしてくれたりしてもらえ、父の都合で短期間に終わってしまったが、続けていれば、歳を取ってからの新しいつながりになったのではないかと思っている。

それなりに代価を払うことで依頼者にとっては負い目や罪悪感、気持ちの負担を減らし、受託者にとっては自分の能力や時間に対する評価といえる。時間や料金が決まっていることで、厚意やなれ合いとは一線を画す責任感や職業意識が生じるし、お互いに割り切りもつけやすい。かといって、ビジネスのみではなく、地元コミュニティでの新しいつながりになり得る。多くの自治体で広がってほしいものだ。

 

注1:ファミリーサポート コトバンク(日本大百科全書ニッポニカ)

https://kotobank.jp/word/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88-1613004

子育て援助活動支援事業(ファミリーサポートセンター事業):厚生労働省

http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/ikuji-kaigo01/

注2:保育ママ(ウィキペディア)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%9D%E8%82%B2%E3%83%9E%E3%83%9E

参考:「保育ママ」サイト http://hoikumama.com/

 

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