#MeToo in カナダ

文・斎藤文栄

昨年秋、女優のアリッサ・ミラノさんのTwitterの呼びかけから始まった「#MeToo(私も)」は、あっという間に一大ムーブメントとなり、世界中で性暴力による被害者が声を上げるきっかけを作った。もともとハリウッドの大物プロデューサーによるセクハラ・性暴力事件がきっかけとなった一連の#MeToo、そしてTimes Upムーブメントは、エンターテイメント界や政界など 特定の「業界」内で権力を持っている男性によるセクハラ行為に対し、被害者が声をあげやすい環境づくりを提供したといえる。

もちろん近年でも、米国の俳優ビル・コスビー氏や、数年前にこのサイトで取り上げた、カナダで人気ラジオ・パーソナリティだったジアン・ゴメシ氏など著名人による性的暴行に対し、複数の被害女性が声をあげ、大きな事件となった ケースはあった。

今回の#MeTooムーブメントが今までと違うのは、今まで個々の加害者の問題として片付けられていた社会的弱者(主に女性)に対するセクハラや性暴力が、個人だけの問題ではなく、「業界」にはびこる悪習として、社会全体が問題視し始めたことだ。

カナダにおいても、#MeTooムーブメントの影響が、まずはエンターテインメント界において出始めていたのだが、今年1月末、ついに政界をも揺らすことになった。わずか2日の間に立て続けに、よく名の知られている3人の政治家がセクハラにより職を失うことになった。

まずはオンタリオ州の次期知事候補の最先端を走っていたオンタリオ州進歩保守党党首のパトリック・ブラウン氏が、十代の少女らに対する性的に不適切な行為があったとの申し立てを受けて辞職。

同様に、ノヴァ・スコシア州進歩保守党党首のジェイミー・ベイリー氏も、不適切な振る舞いが党のハラスメント規則に反するとして辞職を余儀無くされた。

フェミニストとして知られるトルドー首相の周囲でも、スポーツ・障害者大臣のケント・ヘア氏が、アルバータ州議会議員であった当時、性的なコメントを投げかけたとしてツィートされたことを受けて大臣を辞任した。

ところで周囲には、あまりに次から次へと出てくるセクハラ事件に、もういいよ、十分だ。これ以上聞きたくないと食傷気味に思っている声もある。しかしそれは社会の現状に目を瞑っていることにも等しい。被害者が勇気を持って告発することに、せめて真摯に耳を傾けたることが、当事者でない私たちに出来ることではないだろうか。

カナダの政界では、セクハラ疑惑で辞任した人を出した党からも、当然のように、声を上げた被害者の行動を讃える声しか聞かれない。 折しも議会では、連邦政府や議会スタッフに対するハラスメントと暴力に関する法案の審議が行われていた最中で、事件後、政界の変革を求める真剣な議論が交わされた 。

むろん、お膝元から火種を出したトルドー首相も、出席中の世界経済フォーラム(ダボス会議)で、改めて世界に向けてこう発信している。「女性が声を上げる際、耳を傾けるのは私たちの責任であり、さらに言えば、信じることだ」

日本の安倍首相は、ダボス会議は国会対策を理由に欠席したそうだが、この発言だけは聞いてほしかったと心から思った。

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