カテゴライゼーション

文・野口洋美

毎年2月の声を聞くと、実家の確定申告を手伝うため日本へ出かける友人も少なくない。 確定申告とは、前年の所得額から様々な控除額を差し引き、納税額を「確定」し「申告」することをいう。日本の確定申告期間は、毎年2月16日から3月15日だ。

さて、カナダでも確定申告シーズンが到来した。この時期、T1Generalという個人所得申告書を目の前に、思うことがある。カテゴライゼーションについてだ。 

確定申告のためのT1用紙

Marital Status 

T1Generalの最初のページには、申告者の個人情報を記入する箇所があり、氏名や住所、生年月日などと共に、Marital Status(配偶者との関係に関する区分)を申告しなければならない。これは、同じ所帯で確定申告を行う配偶者の有無によって控除等が変わってくることに関連しているのだろうが、それにしてもかなり細かい。

Married(既婚)、 Living common-law(同居)、 Widowed(死別)、Divorced(離婚)、Separated(別居)、Single(独身)の6種類のいずれかにチェックマークを入れるのだが、私が引っかかるのは、「確定申告においては、一旦結婚(同居)すれば、独身に戻ることはない」ということである。一度でも配偶者を申告すると、次に配偶者なしで確定申告を行う場合、「死別」「別居」「離婚」のいずれかを選ばなければならない。過去に配偶者を申告したことが一度もない者しか「独身」を選ぶことはできないのだ。

確定申告をする者に配偶者がいるかどうかを知る必要があるのなら、配偶者有/無の二つで十分事足りるのではないだろうか。それとも、これには何か特別な理由があるのだろうか。というのが、私がT1Generalを眺めながら首をかしげる理由である。

Prefix 

カテゴライゼーションといえば、prefixと呼ばれる苗字の前に付ける敬称についても、気になっていることがある。男性への敬称が「Mr.」でほぼまかなえるのに対し、女性の敬称は「Miss.」「Mrs.」「Ms.」が使い分けられることだ。

これは、明らかな男女差別であるのだが、これに目くじらをたてる人は少ない。近年、ポリスマンがポリス・オフィサーに、チェアマン がチェア・パーソンに取って代わったことを考えると感慨深い。(ちなみに私はこの冬、スノーマンをスノー・パーソンと呼ぶべきだというジョーク?を聞いた)

さて、Miss. が若い未婚女性に使われるのに対し、Mrs. は既婚女性に用いられる。また、未婚か既婚かが不明である場合や、既婚者に対してもビジネスシーンなどでは、Ms. が選ばれる。Mrs.とは本来誰々夫人という意味なので、Mrs. に続くのは本人の名前ではなく夫の名前であるからだ。

しかしMs. は、「若くない未婚女性」に対しても安全パイ的に使用されることが多い。しかもこれは、「男性のMr. に対する女性の一般的な敬称」というより、むしろ「当たり障りの無い呼び名でなんとかやり過ごそう」的な雰囲気を醸し出す。 

カテゴライゼーションとステレオタイプ

目的が明確でないカテゴライゼーションは、無用なステレオタイプに直結しやすい。そして、ステレオタイプが差別を生み出すことはよく知られている。

例えば「配偶者無し」に比べ、「離婚」という言葉から連想されるステレオタイプは、人々の固定観念や差別意識を呼び起こしかねない。とすれば、不必要な分類は、出来る限り避けるべきではないだろうか。

未婚だろうが既婚だろうが、何歳だろうが、何回離婚を繰り返そうが、Mr. 〇〇と呼ばれる男性、敬称で区別される女性、さらには、当たり障りの無いMs.で、差別をオブラートで包もうとすることの浅はかさ…そんなカテゴライゼーションの危険性に思いを巡らせながら、私は今年もエクセルシートとにらめっこしている。

正式名をIncome Tax and Benefit Returnというカナダの確定申告の申告期限は、4月30日だ。 確定申告を行う責任と権利は、カナダで生活する者皆に平等に与えられている。配偶者との関係に関するカテゴライゼーションへの疑問はさておき、所得税を申告する責任を果たすことと、控除や給付金などのベネフィトに対する権利を主張すること、どちらも怠らないようにしたいものである。

 

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