「フェミニスト」の本当の意味は?
文・広瀬直子
カナダのジャスティン・トルドー首相(男性)は、自身を「フェミニスト」と称している。また、読者は、最近の「MeToo#」運動の盛り上がりで、日本で「フェミニスト」とか「フェミニズム」という言葉を聞くことが増えたはずだ。
日本で氾濫しているカタカナ語は、私のような在外日本人、特に英語圏の居住者であり翻訳を仕事にしている者にとって恐怖である。本来の英語から意味も発音もびっくりするほど飛躍していることが多いし、なんか英語っぽく勝手に作られている和製英語も夥しいほどあるので、カタカナ語のボキャブラリーを日本で使われている意味で、アップデートし続けなくてはならない。
「フェミニスト」もこのような不審なカタカナ語のひとつ。
一般に中年以降の日本人には、「フェミニスト」とは、後述する広辞苑の定義のひとつのように「女に甘い男」のことだと思っている人がまだいるのではないだろうか?
英語で言うfeministの実際の意味は、男女平等の思想を持つ人のことで「女に甘い男」の意味はどこにもない。男女平等の思想を持つ男性は、女に甘いわけではなく、対等な立場だと考えるので逆に厳しいこともあるのはご想像の通り。
「フェミニスト」の定義という話題では、2017年、日本の若手フェミニストのグループ「明日少女隊」が岩波書店の広辞苑の新版の出版に際し「フェミニストの定義を改めてください」と、Change.orgなどで署名運動を展開した。
広辞苑の旧版である第6版ではこんな風に定義していた。
- フェミニスト【feminist】①女性解放論者。女権拡張論者。②俗に、女に甘い男。
- フェミニズム【feminism】女性の社会的・政治的・法律的・性的な自己決定権を主張し、男性支配的な文明と社会を批判し組み替えようとする思想・運動。女性解放思想。女権拡張論。
「明日少女隊」の主張をまとめてみる:
- (広辞苑の定義に)「平等」という言葉はなく、「女性解放」「女権拡張」「女に甘い男」というフレーズが並ぶ(のが問題)
- この説明では「あらゆる性の平等を目指すフェミニストの理念が明示されていないため、表現を変更してほしい(「あらゆる性」というのは、女性と男性の二分法に限らない、LGBTQを指す)
- 欧米の英語辞典に記載された「feminism」の説明と比較してみると、広辞苑にはない「平等(equality)」という言葉が使われていることがわかる。
これに対し、広辞苑は2018年1月に出版された第七版で定義を下記のように変えた。
- フェミニスト【feminist】①女性解放論者。女権拡張論者。②女に甘い男。女性尊重を説く男性。
- フェミニズム【feminism】女性の社会的・政治的・法律的・性的な自己決定権を主張し、性差別からの解放と両性の平等とを目指す思想・運動。女性解放思想。女権拡張論。
明日少女隊は、「フェミニズム」の定義に「平等」という言葉が入った点は改善であるが、「フェミニスト」の定義②に「女に甘い男」という本来の英語にない定義が残っていることを批判している。
私の意見では、いわゆるカタカナ語・和製英語も日本語の一部なので、実際に日本でその意味で使われている以上は、定義として入れても仕方ないとは思う。しかし「英語の意味にはないカタカナ語である」と説明は付けてほしい。
最近になって、明日少女隊の運動、トルドー首相の発言、そしてMeToo#運動などのおかげで、フェミニズムは「ヒステリックなおばはん」の思想などと思われることは減ってきたと感じるようになった。
そもそも、社会学者の上野千鶴子さんらが方々で述べているように、「フェミニズム」は女性が男性を敵に回す思想ではなく、男女共生の思想である。「フェミニスト」という言葉が、日本でこれから英語本来の意味で、ポジティブに使われることが増えていってほしい。