もうひとつのアカデミー賞、アカデミー科学技術賞
文・ケートリン・グリフィス
アカデミー賞(通称オスカー)といえば毎年三月に行われる映画界(ハリウッド映画)の最大イベント。
レッド・カーペットを歩き会場へと向かう華やかに着飾った役者たちの映像報道を一度ぐらいは目にしたことがあるだろう。毎年その前年度のベスト映画、監督、主演男優・女優賞などが選ばれ受賞される。欧米では家族や友人などと一緒にハウスパーティーをしながらアカデミー賞を見る人も多い。

授賞式の様子
さて、このアカデミー賞の2週間前に同・科学技術賞の授賞式があることをご存じだろうか?科学技術賞もアカデミー賞の部門のひとつで、映画製作に貢献した技術を生み出した個人や団体に贈られる賞である。俳優たちが集う「メイン」のアカデミー賞では各々の映画から賞が選ばれるが、この科学技術賞は特定の映画ではなく映画界全体への、それこそ映画製作をより優れたものへと導いた技術を公認し讃える賞である。そのため毎年受賞する数や分野は決まっていない。(ちなみにウィキペディアでは歴代の受賞された日本人のリストがあった。注1)
科学技術賞といっても三段階の枠があり表彰状、プラーク(記念板)、そしておなじみのオスカー像とに類別されている。(詳しくはアカデミーのウェブサイトを参照されたい。注2)
科学技術賞の最高賞はオスカー像だが、1931年から始まったこの賞で2017年までにオスカー像が授与されたのは49回だけだ。宇宙へ行った人のほうが多いと誰かが言っていた。
前述したように科学技術賞の授賞式は「メイン」のアカデミー賞より2週間ほど前にロサンゼルス、ビバリーヒルズのウィルシャーホテルで行われる。テレビで盛大に取り上げられるアカデミー賞と違ってこの科学技術賞のテレビ放送はない(イベント自体は録画され、関係者たちはDVDを受け取ることができるが)。賞の内容としては、ホテルの豪華なホールで正装をきめてきた人たちがコース料理を味わいながら授賞式を楽しむ、といったものだ。
また「メイン」の授賞式ではお馴染みの「ノミネートはされたが受賞できるかどうかわからない」といった緊張感がこの会場にはない。何故ならすでに授与が決まった人たちと関係者だけが出席するので「自分の功績が認められ、嬉しい」的な笑顔で会場全体がリラックスし、この授賞式を楽しもうといった空気間で一杯だからである。
毎年、司会役は知名度のある役者が務める。今年はSFファンなら大興奮するだろう「スタートレック」や「Xメン」シリーズでおなじみのベテラン俳優・サー・パトリック・スチュワートであった。
そして今回2018年の科学技術賞では珍しく2つのオスカー像が授与された。そのうちの一つがHoudini(フーディニ)3DCGソフトウエアを開発したSideFX社へ贈呈された(注3)。映画で再現されるデジタルエフェクト(特に自然現象や破壊シーン)の業界標準がHoudiniになったことを賞したものである。

席に座る前のホール会場の様子
SideFX社にとって今年の科学技術賞は特別で、このオスカー像に加えHoudiniのデザインおよびアーキテクチャへ寄与した4人の社員へも個人的にプラークが贈呈された。その中の一人が私の夫だ。SideFX社に勤めて20年弱、頑張ってきた彼がアカデミー賞で実績が認められたのは最高に素晴らしいことで家族全員お祭り騒ぎだった。彼も自分の夢が叶い大喜びで、授賞式も常に笑顔が絶えなかった。授賞式へはゲストを一人招待できるので私も同伴したが、おかげで思い出に残る豪華で贅沢な数時間を一緒に過ごすことができた。
ついでだが、受賞者のうち女性が2人だけということには一抹の寂しさを感じざるをえなかった。しかしながら、その女性受賞者の一人がスピーチで「女の子たちよ、もし理数系が好きなら私がこの賞を受け取ったことが証明しているようにこの分野で成功する道や可能性は開けている。だから好きなら積極的に突き進んで頑張ってくれ」的な事を言ったのには感動した。テレビ放送されていないので、このスピーチを聞いた女の子たち(とその親や指導者たち)が何人いるか分からないが、でもどこかでこれが励ましになることを願いたい。