国際結婚と夫婦別姓
文・野口洋美
私の夫はアイルランド系のカナダ人ですが、私は結婚後も夫の姓を名乗っていません。しかし、国際結婚に憧れる女性たちは、しばしばカタカナの姓になることへのあこがれを口にします。そういえば、私がカナダで知り合った日本女性たちは、私のように夫婦別姓の人、夫の姓と自分の姓をつないでいる人、夫の姓を名乗る人と様々ですが、一体これはなぜなのでしょう。
そこで国際結婚における夫婦別姓に日本の民法と戸籍法がどのように影響しているかを調べてみました。
日本人同士の結婚
民法では、日本人同士の夫婦は「婚姻の際に夫または妻の氏を称する」と定められています(750条)。しかし、夫が妻の姓を名乗るのは全体のわずか1.2%で、これらのほとんどが家督を継ぐ娘の夫となる「入婿」ケースなのだそうです。
「お嫁に行く」という表現に代表されるように、結婚後の女性が夫の姓を名乗ることは、自然だとされています。が、結婚前の氏名で社会的地位を確立してきた女性たちが夫の姓を名乗ることになった場合、せっかく築いてきた職場や社会での知名度を失うことになりかねません。
夫婦別姓裁判
こうした場合、女性は「結婚後も旧姓のままで仕事を続けたい」と望むかもしれません。これが2011年、夫婦別姓を求める裁判につながりました。
「婚姻の際に夫または妻の氏を称する」という民法750条は「すべての国民は法の下に平等である」とする憲法第14条に反するという訴えに対し、 2015年、最高裁は「民法750条は合憲である」との判決を下しました。
夫婦が同じ姓であることは「わが国に定着した家族の呼称として意義があり、呼称を1つに定めることには合理性が認められる」というのがその判決理由でした。しかし、15人の裁判官のうち、女性裁判官全員の3名と男性裁判官2名が、違憲であると判断したことは大変興味深い事実です。
国際結婚と氏の選択
一方、日本人が外国人と結婚する場合「民法上の氏」は変わりません。国際結婚する日本人は、結婚後も生まれたときの姓をキープすることができるのです。しかし、もし当人が望めば、戸籍法上の届出をすることで、外国人配偶者の姓を名乗ることも可能です。これが、国際結婚した日本人女性たちが、日本の姓であったり、カタカナの姓であったりする理由なのです。
さて、日本人同士の婚姻においては、離婚すれば自動的に旧姓に戻りますが、外国人配偶者の姓を名乗っていた日本人が離婚した場合、離婚後3カ月以内に届出なければ、戸籍上旧姓に戻るチャンスを失ってしまいます。家庭裁判所に請求して旧姓を取り戻すことも出来ますが、その手続きは煩雑です。
夫婦別姓裁判パート2
さて、今年、夫婦別姓を求める新たな裁判が始まりました。こちらは先の民法上の訴訟と異なり「国際結婚なら夫婦別姓が可能であることから、日本人同士の結婚に夫婦別姓の選択肢がないのは不平等だ」という戸籍法上のアプローチです。
「結婚によって姓が変わらない国際結婚でも、届け出れば外国人配偶者の姓を名乗ることができるのと同様、夫婦の姓を統一しなければならない日本人同士の結婚でも、届け出による夫婦別姓を認めてしてほしい」と訴えているのです。
離婚と同時に旧姓に戻る日本人同士の離婚が、届出によって元夫の姓を保つことができることを考慮すれば、この要求は理にかなっているように思えます。
民法と戸籍法の交錯する夫婦別姓問題はとても複雑です。現時点で言えることは、国際結婚する日本人に与えられた夫婦別姓は、恵まれた選択肢であるということでしょう。名前は、私たちのアイデンティティの中でも最も重要なものです。今後の夫婦別姓裁判の行方、見守りたいですね。