『光に向かって進め サーロー節子 祖国へのメッセージ』を観て
文・ケートリン・グリフィス
新年早々、Group of 8の4人でサーロー節子さんのお宅を再びお邪魔した。
目的は昨年の夏に私たちが主催した節子さんを囲んだイベントの「反省会」だったが、結局美味しいごはんを頂きながらワイワイとお喋りをするだけで「反省」はどこへやらとなった(注1)。食事の後12月下旬日本のNHKで放送された節子さんのドキュメンタリー『目撃!にっぽん 光に向かって進め サーロー節子 祖国へのメッセージ』を観る機会に恵まれた。8月のイベントで上映した『明日世界が終わるとしても~「核なき世界へ ことばを探す」 サーロー節子』の続編ともいうべき作品で、ノーベル賞授賞式のあと11月に来日した彼女の活動を記録したものである。
食事中にも彼女の日本訪問時の話題が出ていたので、ドキュメンタリーをみながら「あーこれが節子さんが話されていた事ね~」と思い当たることも多かった。
一番感動的だったのは、三次高校(広島県)の生徒達と節子さんの交流会のセクションだった。ハード・スケジュールの大変な中、この高校生たちにどうしても会いたかったことを伺っていた。この三次高校では節子さんのノーベル平和賞受賞式での演説を英語の授業で聞いただけではなく、そこから感じ取ったことを生徒達が手紙にして節子さんに送っていた。その手紙が入ったフォルダーは彼女の書斎のテーブルの上に大切に置かれてある。ドキュメンタリーの中で、一人の生徒が節子さんの演説に感銘を受け自分も世界の人のため、平和のために動き出す決意ができたこと、そして節子さんに「平和に向けて一緒にがんばりたい」と語った時、私は涙がでてきたのだが、節子さんも涙ぐんでおられた。
それにしても、広島の松井市長や安倍首相の非核化に対する姿勢にはもどかしさを覚える。
節子さんの11月の訪問は、日本が「核兵器禁止条約」に署名するよう陳情することも大きな目的の一つであった。昨年7月に核兵器を法的に禁止する初めての国際法「核兵器禁止条約」が採択され、今後50カ国が署名すると「核兵器禁止条約」はその90日後に発効することになっている。残念ながら2019年1月現在、カナダも日本もこの条約に署名はしていない。
日本政府が核兵器禁止条約に参加しない方針を示していることがどれだけ平和保持に反する事なのかを直接伝えたいため、節子さんは安倍総理大臣と話し合える機会を要望していた。結局「日程上の都合」という理由で念願の首相との面会は実現出来なかったが、安倍首相宛てに書いた手紙を西村官房副長官に預けることはできた。
食事中でも「手紙読んでくれたかしら」と気にしていた。我々が「その手紙を私たちも読んでみたいね」と話していたらコピーを見せてくださり、Group of 8のサイトで紹介してよいと許可を頂くことができた。
ここでは、手紙の最後章を引用させていただく:
「広島・長崎で核兵器がもたらす非人道的な結末を身をもって経験したはずの日本が、自らの安全のためには「核の傘」なるものが不可欠だといつまで主張しつづけるのでしょうか。核仰止力とは、核兵器の通用を前提とした脅しの戦略にほかなりません。都市を燃やし尽くし、人々を無差別に殺戮し、地球環境を破壊して地球上の生命を消し去る大量破壊兵器が使われることを日本は容認するというのでしょうか。
日本政府は、自らの歴史的、世界的、道義的責任を自覚し、核兵器に依存した政策と決別してください。そして、核兵器禁止条約に署名・批准するという一歩を踏み出してください。
日本政府は核軍縮のための「橋渡し」になると言っていますが、核兵器禁止条約の価値を是認すらせず、核保有国の立場を代弁ばかりするような今日の外交姿勢には、説得力がありません。核保有国の共犯者になっているようにすらみえます。みせかけの「橋渡し」ではなく、核兵器廃絶に向けて献身的に活動している被爆者や市民社会組織との真の対話と協議を深めてください。
核兵器を過去のものとしようとする世界史的な潮流のなかで、正しい選択を行ってください。そのことこそが、広島・長崎で無惨にも命を奪われていった一人ひとりに対する報いとなります。
2018年12月6日
サーロー節子」
サーロー節子さんの書斎には学者顔負けの大量の本や資料がある(特に広島・長崎の原爆や戦争に関連する日本語・英語の難解そうな本)。彼女は被爆者としての実体験だけで語っているのではなく、関連史実や知識を身につけた専門家として核廃絶を語っているのだ。日本政府は(カナダ政府も)彼女の訴えを真剣に受け止め実行してほしいと願う。
このドキュメンタリーも幅広く色々な方々にみてもらいたい。そうすれば、もっと多くの人が平和について考え、そして行動するようになると思う。
節子さんの核廃止運動の活動に再度感銘を受けたのは言うまでもないが、食事をご一緒したりイベントなどで彼女が人と接する姿をみていると、節子さんは真っすぐで、とにかく純粋に人間に関心を持っていらっしゃるのだと思う。長年のソーシャルワーカーとしての経験と生まれながらの才能だろうか、節子さんは一人ひとりの話に耳を傾け、真剣に聞いてくださる。いつも人のために何ができるのかと考え、行動をされてきた方だと思う。核兵器廃絶にとどまらず節子さんの活動は常に人間と地球のためであると強く実感する。
節子さんは87歳になり「ちょっと歳を感じはじめたわ」とおっしゃっていたが、笑いの絶えない楽しい時間をご一緒させていただき、私はまたパワーをおすそ分けしてもらった。
注1:夏のイベントの報告はこちらです:https://thegroupofeight.com/2018/09/22/サーロー節子さんのドキュメンタリー上映と講演-2/