「特別報告」日本における介護現場の今
文・金辺弘幸
前回「高齢者介護の現場に立って」というレポートをGroup of 8で紹介させていただいてから早6年半過ぎました。週に3日間のパート仕事ですが(以前は週に4日間頑張っていたのですが疲れを感じて短縮)その後の6年間の経験から再度報告したいと思います。
現在では高齢者介護の問題対処は、日本のみならず先進諸国を中心に世界の共通課題となっているように思います。その意味で高齢化社会の先頭を走っている日本における介護現場の問題を皆さんの共通認識としてとらえていただければ幸いです。
前回のレポートでは介護現場における種々の問題点を中心に報告しました。今回は介護業界の職員不足問題に絞って、それに対処するための具体的な処方箋を私の拙い経験から報告できればと考えています。
介護現場の人手不足問題
これは大きく分けて二つの大きな要因がある。
一つは2000年4月からの介護保険制度の導入以降、介護施設で働くことを選択し、意義のある仕事を求めこの世界に入ってきた多くの若者たちが、下記に示すような施設経営者の未熟さや無理解から介護現場を去っていったこと。
もう一つは仕事の過酷さや責任の重さ、その割に少ない収入などが世間に知れ渡ったことから、介護業界を志望する若者が徐々に減ってきているという現実。
業界全体としてみて、重度の痴呆や介護度の高い高齢者の数はどんどん増えるのに優秀な人員は減り、職員の負担は増加、給料は上がらない、外の社会では勤めた経験がないからとりあえず慣れた仕事で少しでも収入の良い職場を・・・と渡り鳥のような職員が増加するといった悪循環に陥っているように思う。例えば私の勤める施設の例では、パートを除く30名の正規職員のなか私より古いキャリアの職員は1名のみ。多くの優秀な職員、若者が辞めていった。
しかしこのような中でも、業界には中途採用などせず若干の新規採用のみで運営する介護施設の存在もあり、一度だけだがその施設の見学と職員に話を聞かせてもらったことがある。
この施設でも以前は職員の入れ替わりが結構あったらしいが、離職率改善に向け経営者と従業員がともに取り組んだ。
その取り組みを紹介すると:
- サービス残業の禁止と持ち帰り業務も残業と認め手当を支給。(多くの介護施設でこれが実行できず人手不足を理由に毎勤務日の2~5時間のサービス残業が常態化。また役所などへの書類仕事が多いため持ち帰り業務も多い
- 家族との時間を大切にするため有給休暇の完全消化。シフト勤務のため仕事が惰性に陥るリスク軽減と精神的な疲労を脱するためパート職員も含めた年2回のリフレッシュ休暇の取得を義務化。(これも実行となると多くの施設では難しい)
- 育児休業は希望期間取得可。復帰後の短時間勤務制度も子供が小学校就学まで可能。
- 中小企業退職金共済に加入。(多くの施設で無加入が現実。私が今の施設で働きだした最初の頃、勤務歴7年の優秀なベテラン職員が退職金ゼロで辞めていったことが忘れられない)
- 毎年の昇給や資格手当の拡充の文書取り決め。(多くの施設では経営者の気分次第でその都度、昇給や資格手当が決まる。そのため将来の生活展望が描けない)
上記のように労働条件を向上させてきた結果、職員の離職がほとんど無くなったとのこと。現時点では他の施設と比べて毎月の給料が格別高くもないが、5年先、10年先の自分の将来設計がイメージできるようになったことが大きい。また利用者からの感謝の言葉が仕事への誇りにつながっており、家族や友人にも誇れる仕事、などの話が聞けた。
従業員を大切にする施設は、職員が明るく元気に仕事に従事しており、利用者に対する対応も余裕があり優しい。このような施設に入ることのできた利用者や職員は本当に幸せだと思う。小さなことかもしれないが働く人を財産と考えた職場環境づくりを率先する上記のような施設を高く評価すると共に、その重要性を改めて確信した。
高齢者介護は社会的に重要な仕事であることは周知の事実だが、現在の介護保険制度の元ではいくら良心的な施設経営者にしても、職員に対して大企業社員並みの高収入、好待遇の実現は無理筋だ。そこで我々が今できることは、介護施設で働く人たちが最低限度、安心して働き続けることのできる環境整備の実現を求めていく強い社会的な共通認識を育てることだと考える。
優秀な人材の使い捨てが長い間まかり通ってきたのは、行政の無策と、業界の未成熟さがこの問題を放置してきたからだと言える。選挙時やマスコミ、インターネットなど様々な機会をとらえて、絶えず社会的なプレッシャーを行政や介護業界に与え続けることの重要さを強く思っている。
最後に、家族や知人に介護施設を探している人がいたらアドバイスしてほしい。施設を選ぶもっとも重要なポイントは、職員の平均勤務年数を調べることだと。