トロントのハウジング・クライシス パート2

文・三船純子

以前の記事で取り上げたトロントのハウジング・クライシスへのユニークな解決対処案をいくつか上げてみたい。

カナダ一の人口増加率のトロントは、2017年から2018年の一年間で、77,000人の人口増加が記録されている(ライアソン大・都市開発学部調べ)。賃貸住居の場合、家賃の金額は収入の30%内であるのが理想とされるが、トロントの平均家賃は2019年で2,385カナダドル(約20万円)である。かたや市内の空室率は0.5%という低さだ。手ごろな家賃の物件がどんどん減少していく中で、高い家賃が払えない市民が抱く危機感は年齢に関わらず高まる一方だ。

仕事で関わるクライアントの中には、支払い可能な家賃を求めて、公共交通へのアクセスの良い市内を離れ市外へ移っていく人が少なくない。 緊急時の避難場所であるべきシェルターから、決められた滞在期限内に出られない人も多く、6ヶ月以上から中には1年以上シェルターに滞在するというケースも少なくない。支払い可能な引越し先が見つからないためである。

ハウジング・ワーカーと呼ばれる家探しを専門に手伝うスタッフが市内のサポート団体にはいるが、7~8年以上待ちだといわれる市営アパートへの入居手続きをして順番待ちのリストに名前が載った後は、自分で安い物件を探していくしかない。ワーカーも安い物件自体が希少なので、それ以上助けようがないのだ。結果的に賃貸のテナント保護法が適用されず、正規の契約が交わされない住居条件がよくないシェアハウスや、交通の便のよくない場所への引越しなどの選択しかなくなったりするのだ。

そんな中でトロント市は「トロント・ホームシェア・プログラム Toronto HomeShare」(https://homeshareto.ca/)というシニアの家主と安い賃貸を求める学生をマッチングさせるユニークなプログラムを2019年3月にスタートさせた。世代を超えた家主とテナントが一つ屋根の下に共同生活することで、シニアが自分の家で老後の生活を続けるためのサポートをテナントである学生から受け、学生も手頃な家賃という恩恵を受ける、相互援助を促す画期的なプログラムだ。

持ち家に空き部屋があり認知度に問題がない55歳以上のシニアと、$400〜500(33,000~41,000円程)の家賃払い及び一週間に7〜10時間のシニアの家事の手伝いや交流の時間を持つ条件に同意する学生をマッチングさせるというものだ。資格のあるソーシャル・ワーカーがマッチングを担当し、両者のバックグラウンド・チェックを行い、何か問題が生じた際のサポートなどを行う。2018年に試験的に行った12組のマッチングのプログラム参加者の評価はとても良いようだ。

またメディアなどでLaneway Housingなるものが取り上げられ話題になっている。トロント市内で見かける家の裏に面したバックヤードに車庫スペースが設置されており、その車庫の前にはLanewayと呼ばれる車が出入りするための裏路地がある。その路地裏に面した車庫スペースを住居・賃貸スペースに改築することをトロント市がLaneway Suite Program (https://www.toronto.ca/community-people/community-partners/affordable-housing-partners/laneway-suites-program/) として奨励している。

アメリカのカルフォルニア州やオレゴン州では一歩進んで、Lanewayに面していない車庫やバックヤード内に住居スペースを作ることを奨励する条例のもとに、住居スペースの増加を促進させている。

また住居費の節約法として、シェアハウスなどの他にも、各世代が別々の家を持たずに数世代が一軒の家に住むという方法が見直され、家族ではない友人同志や二組のカップルが一件の家を合同購入して一緒に住むなどという方法を実践している人達もいる。

トロント市の画期的な試みが、クライシスの沈静化と、人との絆を深めるコミュニティー造りに繫がっていくことを心から願う。

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