ジャパニーズ・ソーシャル・サービス

文・空野優子

トロントには、ジャパニーズ・ソーシャル・サービス(Japanese Social Services、以下JSS)という団体がある。JSSは、主に日本語圏出身の移住者や短期滞在者のために、子育てサポート、シングルマザーのサポートグループやシニア向けのプログラム、また日本語でのカウンセリングを提供している非営利組織である。慣れない現地の生活での様々な問題や、別居・離婚やDV(家庭内暴力)などに直面した時に、経験豊富なバイリンガルのスタッフのサポートを受けられるJSSは、日本人・日系コミュニティにとって頼りになる存在である。

さて、今回このJSSに理事会のメンバーとして参加することになった。私は今まで積極的に日系コミュニティに関わってきたわけではなかったが、トロントでの滞在が長くなり、今までの経験を何らかの形で活かせることができないかなと考えていた時に、JSSでの新しいボードメンバーの募集を聞いて応募することにしたのである。

JSSの活動は多岐にわたるが、私がJSSに特に関心を持つようになったのは、正式な移住者にかぎらず、ワーキングホリデーなど、一時滞在でトロントにやってきている人も広く支援の対象としている点である。というのは、ここ数年ワーホリの日本人に知り合う機会が多いのだが、話を聞いていると、仕事や部屋の賃貸の関係でトラブルを経験する人がとても多いようなのである。バイト先の給料の支払いが遅れたり、理由もなく解雇されたり、住む場所にしても暖房が切れても修理してくれないなど、最低限の権利が守られないというようなことがあり、実際JSSへの相談が少なくないそうだ。JSSは領事館と協力しながら、様々な犯罪や事故の被害者のサポートも行っている。

もちろん、私の経験からしても、日本に比べ、よく言ってのんびりしていて、悪く言うといろんなことが適当すぎるトロントでは、生活上でのちょっとしたトラブルは珍しいことではない。また慣れない海外生活では、日本ではあまり縁のない苦労をするのも、ある意味貴重な経験となるのかもしれない。だが、一般的に英語に不慣れで、またきっぱり権利を主張することも少なく、周りに頼れる人のいない若い日本人の弱みにつけこむ現地の雇用主、大家が少なからずいるのだろう。また不当な扱いを受けても、自分の権利を知らないか、知っていても言葉の壁や、短期間の滞在でできることには限りがあることから、結局泣き寝入りをすることが多いようである。

移民の多いトロントでは、英語習得、住宅、学校などの生活一般のサポートは様々な移民支援の団体で受けられることができ、そのようなところではチャイニーズ、コリアン、また南アジアの言語など、移民の主な出身国の言葉を話すスタッフも多い。しかし日本人は移民のグループとしては数が少ない上に、このような移民支援は主にカナダ政府の助成で運営されていることが多く、永住権を持った移住者のみに対象が限られていることが多い。また、政府の公式文書やサービスに日本語訳があるものはほとんど無く、通訳サービスがあるのは法廷や一部の病院程度にかぎられている。そういう意味で、永住者、短期滞在者を含め幅広く日本語圏出身の人をサポートしているJSSの、日系コミュニティに果たす役割は大きいと思う。

ちなみにJSSは、運営資金の多くを個人からの寄付に頼っている。私自身理事会に入ったばかりで手探りの段階だが、幅広くコミュニティにJSSのことを知ってもらい、これからの活動に少しでも貢献できればと考えている。

 

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