「最後まで自分らしく」。安楽死という選択

文・ケートリン・グリフィス

最近友人との集まりでもっぱら話題になるのが親の老後の心配だったりするので、今回は数か月前に安楽死で他界した友人の母のことを紹介したいと思う。

友人の母、ルースには私も数回お会いしたことがあり、しっかりした、でもちょっと気難しい方のような印象をうけたことを覚えている。ルースは19歳の時に結婚、64歳でご主人を亡くして以降、息を引き取る今年、満86歳まで一人暮らしを続けてきた。彼女の一人息子が私の友人である。

ルースが昨年自宅で転倒し、腰と膝を痛め入院した話は友人から聞いていた。退院して自宅へ戻った数週間後にまた転倒。再入院した時に友人が「今度こそ退院したら一人暮らしではなく高齢者ケアホームに入居してもらわないと・・・」と心配していた。

適切な施設を探し始めていた最中、病院から彼に連絡がとどいた。「ルースが安楽死を選択したのでご子息とも相談したい」と係りつけの医者からの直々の電話であった。

急な展開に友人はもちろん驚いた。そして家族と相談せず「勝手に決めた」ことへの怒りも大きかったらしい。家族に突然「私は医者の手を借りて死にます」と言われて動揺しない人はいないだろう。

ルースが安楽死を選択したのは、自力で歩く事が不可能という事実に直面し、もう自立した生活が不可能なこと、そして身体だけでなく脳の衰えまでもが進んできていることの自覚。これらの状況を勘案して、正常な精神状態の間に安楽死を選択したいとの気持ちだったようだ。ちなみに、安楽死対象者の基準として「適格な判断のできる精神状態の人物であるか」「死の避けられない不治の病であるか」などがあり、これらを満たさなければ許可はでない。

ルースが入院していた病院では彼女が初めての安楽死希望患者だったこともあり、最初の段階では書類の問題から多少遅れが生じたらしいが、あとは友人もびっくりするほど慎重かつスムーズに決行にむかった。

一人息子である友人も医療関係者からの詳細な聞き取り調査があり、遺族がそそのかして安楽死を進めていないことを証明しなければならなかったようだ。ほぼ丸一日、医者や安楽死関係者と面談したとのこと。医者側としてはあくまでルース本人の正常な判断であること、遺産やその他のトラブルのための「死の選択」でないことを証明する義務があったようだ。

ただ、彼に電話を入れた時点ではすでに数人の医者が個別にルースを審査し、インタビューも済ましていて、ほぼ安楽死対象者として認められていたらしい。やはり本人の意思を尊重することに主眼を置いているようだ。

本人と家族(この場合私の友人)の合意と医療側の合意、書類などの確認の結果、三週間後に決行となった。その日時にルースは友人夫妻の立ち合いのもと医者からの薬で安らかに息を引き取った。

病院からの突然の知らせから、一か月もしないうちに友人は母親を見送ったことになる。驚き、怒り、悲しみ、そして納得。あと三週間の命と決まってからはとても有意義に彼女との時間を過ごしたそうだ。友人には13歳と10歳の娘がいるのでルースには「逝く前に10年分に値するほどの誕生日プレゼントを孫たちに用意しろ」と半ば強制的に求めたらしい。

ルースが安楽死を選んだことを娘たちには伏せている。娘たちが30代に入ったら伝えるかもしれないと言っているが、今はまだ知らせたくないそうだ。病院へお見舞いに娘たちを連れて行った時は、その話題には触れないでほしいとルースにも周りの看護婦や医者にお願いしたら真摯に対応をしてくれたらしく、友人は感心していた。

ちなみにルースは孫へ家族4人でのデイズニーランド10日間旅行をプレゼントした。今年のクリスマスに行くらしい。

友人は「最後まで自分らしく生きたい」と常に語っていたルースに安楽死の選択権があったことを喜ばしいことと受け取っている。そして、今では母の決断が一番彼女らしいことだと納得している。何年間も介護の心配をし、ケアの出費が生活の負担にならないで済んだことに感謝をしたいとも言っていた。デイズニーランド旅行も楽しみにしているそうだ。

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カナダの法律Bill C-14 Medical Assistance in Dying (MAiD)、安楽死、についてはカナダ政府のウェブサイトより情報が得られます

https://www.canada.ca/en/health-canada/services/medical-assistance-dying.html

https://www.canada.ca/en/health-canada/services/options-decision-making-end-life.html

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