トロントで出産: 助産師という選択
文・空野優子
2019年10月にトロントで第三子を出産した。私の子どもは三人ともトロント生まれで、その体験に基づくこちらでの出産医療について紹介する。
トロントのあるオンタリオ州では通常、医師か助産師(midwife)のどちらで出産するかを選択する。医師を選んだ場合は自動的に病院での出産となるが、助産師の場合、病院、バースセンターと呼ばれる分娩専用の施設、あるいは自宅での出産が可能である。
もちろん、助産師と産婦人科医では提供できる医療の幅が違い、助産師が受け入れるのは低リスクの妊娠、出産に限られる。また、妊娠の経過によって、あるいは出産時に帝王切開になったりする場合には、提携している病院の医療管下に移される。
私は第一子を妊娠した時、できれば自宅で産みたいと考え、トロント市内にある3つの助産院に連絡をとった。だが妊娠3か月の時点で、いずれもすでに私の出産予定日あたりは予約がいっぱいとのこと。そのことを話した友人から「助産師にかかりたかったら妊娠が分かった直後に連絡しないと!」と言われ、医師より助産師の予約を取ることが難しいということを後から知ったのである。というわけで、第一子の時は医師による病院での出産となった。(ちなみに最近は、助産師の数が増えたこともあり、トロント周辺の助産師不足の状況は改善しているとのことである。)
二人目、三人目の時は、助言通り真っ先に助産院に電話をしたかいがあり、希望通り助産師にかかり自宅で出産することができた。私のお世話になったクリニックでは、助産師が三人でチームを組んでいて、妊娠中はローテーションで診察にあたり、出産時には、その三人のうち、その時担当の助産師がやってくる。いつ来るかわからないお産に備えての仕組みだ。対照的に、病院では普段の診察は同じ医師が担当するが、実際の出産は、たいていの場合、その時担当の知らない医師に当たることになる。
また、カナダでは病院で医師のもと出産すると、たいてい24時間で退院となり、産後、病院に通って診察を受けることになるが、助産師の場合は産後の数日は訪問診療をしてくれるのが大きなメリットだ。加えて私は自宅での出産だったため、入院、退院といった移動もなく、産後一週間赤ちゃんとゆっくり時間を過ごせたことは、とてもありがたいことだった。
医師、助産師の両方にかかって思うのは、両者の間では妊娠、出産に対するアプローチがかなり違うということ。病院で出産した時は、何かあればすぐに対応してもらえる安心感はあるものの、モニターやら点滴やらに繋がれて、まさに医療行為を受けている感じだった。比べて助産師の場合は、妊娠中の診察も問診が主で(体重さえも図らない!)、分娩の時は、お産が順調に進んでいることを確認するほかは、マッサージしてくれたり、助言をくれたりと、女性の体が本来持つであろう力を支えるサポート役といった感じだ。もちろん専門の訓練を受けているので、通常の医療行為は行うし、必要があれば医師へ取り次ぐといった判断もしてくれる。
妊娠、出産という人生の一大事をどのように過ごすかというのは個人の価値感が大きく影響するし、本人の健康、妊娠経過によっても変わるので、どの選択が好ましいとは言えない。また出産の経験は一人一人異なるので、周りには助産師を選んで後悔した人もいる。ただ、私は日本であまりなじみのない自宅出産という形で、家族と助産師に支えられて誕生の瞬間を迎えられたことはとてもよかったと思っている。