大学受験 共通テスト狂騒曲

文・鈴木典子

今年の「大学入試センター試験」は、例年のごとく東京でさえ雪交じりの天候の中、1月18日・19日の週末に行われた。これは、日本の大学の共通入学試験である。

設問は、国語、数学、理科、社会、外国語の5教科について、高校の学習指導要領に準じた基礎的な問題を、平均点が6割程度になるような難度で、マークシート方式の回答選択式で出題されている。正解は後日新聞などで公開されるので、受験者は自分で書き留めた解答をもとに自己採点して各大学が公開している基準点と比較し、出願する大学を決め、結果は試験センターから志望校に提供される。近年は大手予備校がコンピューターで成績を判定してくれるらしい。

この共通入学試験は、1979年に初めて実施されて以来、何度か形を変えて、来年は大きく方針を変えて「大学入学共通テスト」として実施される予定である。私は、初代「大学共通第一次学力試験(通称「共通一次」)」の第1回受験生である(年がばれる…笑)。当時は、国公立大学受験生が、この試験の結果をもとに、二次(本)試験を受験できる大学を決めるための試験で、大学入試に増えていた「受験者を落とすための難問・奇問」を排除するための試験であった。1990年に「大学入学センター試験(通称「センター試験」)」として、私立大学も同試験の結果を一次試験として足切り(本試験を受験できる基準)に採用できることとなり、2019年は大学受験者68万人に対して、55万人が受験している。

来年から思考力を重視するために国語と数学に記述式問題の導入と、TOEICなどの民間試験を活用しての英語の4技能試験の導入が検討されたが、結局今年の試験の直前に両方とも見合わすことになった。この試験については、入学試験としての試験に加えて、高校在学中に到達度テストを基礎レベルとして設定する提言もあるようだ。

日本の大学入試は、「試験で一発勝負」という日本の教育システムの典型だと思う。高校の成績がどうであろうと、入試で合格すれば大学に入れる。学業で優秀な成績を修めたり、部活動や生徒会等で成果を残した生徒は「推薦入試」という方法があるが、それもごく一部の生徒で、普通のレベルでは試験が必要だ。そして、各大学はそれぞれ傾向の違う試験を出題するので、受験生は自分の行きたい学校の試験の対策を「予備校」で学ばなければならない。高校入試は中学の成績を「内申書」として判断基準とするが、大学入試では高校で学んだことの定着や理解を尺度にする標準的方法がないのだ。

センター試験の改革提言の中にある「基礎レベルテスト」構想はオンタリオ州のOSSLT(Ontario Secondary School Literacy Test 注1)と類似している気がする。OSSLTはオンタリオ州のGrade 9(日本の中学3年相当)で全生徒が高校の卒業資格を得るために受験・合格しなければならないReadingとWritingの試験である。ちなみに、オンタリオ州ではGrade8で数学の共通テスト、Grade6と3で数学と英語(ReadingとWriting)の共通テストが行われるが、ほかの州ではGrade12(卒業年)で実施したり、教科テストを行うところもある。

そもそもオンタリオ州の公立学校では、小学校から大学まで、年間を通じて小テストやレポート・プレゼンテーションなどの課題、単元ごとのテスト、期末テストなどの積み重ねで評価される。そして、大学入学も、各学部が必須科目とその平均点の合格ラインを公開しており、高校のGrade11(卒業前の学年)からGrade12の成績で審査される(Grade12の前期の成績で合格と審査されても、後期を含めた成績が基準点に達しない場合は、合格取り消しもあるし、逆もあるので、卒業まで気が抜けないし、最後まで頑張れる)。クラブ活動やボランティア、学外での活躍なども加算対象になる。日々ちゃんと過ごしていることが、大学入学の前提条件になっている、いや、学校での学習、集団の中での行動が常に教育システムでの評価の中心になり、それが徹底されていると言える。

学校を休んで(または授業中は寝ていて)も、塾で受験対策をして入試で高得点さえとれば偏差値の高い大学に進学できる、さらに言えば、大学でさえ、授業に出なくても期末テスト直前に友達のノートを借りたり先輩に過去問を教えてもらって勉強すれば単位が取れるという、日本の教育システムが変わらなければ、共通テストだけを変えても、根本的な問題は残るのではないだろうか。

注1:OSSLT:https://www.eqao.com/en/assessments/OSSLT

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