感染症予防と観光キャンペーン

文・野口洋美

2020年7月4日、東京都の小池知事は 「都外への移動自粛」を再び都民に要請した。5月中旬以降コントロールされたかに見えたCOVID-19だが、東京都では、7月2日の107人以来、3日連続100人を超える新規感染者が報告された。

私が暮らす長野県白馬村では、現在も感染者報告ゼロだ。別荘地や600軒以上の宿泊施設を抱える白馬村にとって、6月19日に解除されたばかりの移動自粛が再要請されることは死活問題だ。4月から5月にかけての緊急事態宣言下で、白馬村の経済は大きな痛手を受けている。長野県知事自らが来県を控えるよう訴える姿を横目に、観光に携わる者たちは、「いたしかたない」とすっかり全国区となったフレーズを俯き加減に繰り返した。

7月4日の都知事の発言で、白馬村の宿泊施設では一時キャンセルも見られた。しかし、都民の大半は「感染症予防を確立した上での経済活動継続」という国の方針に従ったようだ 。⁽¹⁾ そのため白馬村は連日観光客で賑わっており、その多くが東京から訪れたのだという。

特筆すべきは、白馬村で見かける欧米人の数だろう。観光施設で見かけるその割合は約3割で、今年2月頃のスキー客の数に迫る勢いだ。だが彼らは海外からの観光客ではない。

現在白馬を訪れているのは、夏休みの里帰りを諦め白馬を避暑地として選んだ外国籍の人々だ。就労ビザや家族ビザで日本に滞在している外国人は、感染症予防の見地から再入国を許されていないため、 おのずと夏休みも日本で過ごすことになる。7月12日に日本各地の国際空港で発見された20人の感染者⁽²⁾は、海外から帰国(一時帰国)した日本国籍を有する人々であり、外国人観光客の受け入れが再開されたわけではない。

海外からの観光客を失った上に、先の要請で2ヶ月近く休業を余儀なくされた観光業を支援するため、国土交通省(観光庁)は、宿泊料の35%を国が負担するなどとする「Go To キャンペーン」⁽³⁾を展開している。

また、JR東日本では、8月20日から来年3月31日まで、「えきねっとサイト」で購入する特急券と運賃を乗車区間限定で半額にするという「お先にトクだ値スペシャル」⁽⁴⁾というキャンペーンの開始を発表した。どちらも移動緩和どころか、首都圏から観光地への遠距離移動を奨励する企画だ。

東京都では、7月4日以降さらに状況が悪化し、7月9日から12日まで連日200を越える新規感染報告が続いている。また7月12日には首都圏を中心に全国で併せて407人の感染者が報告された 。⁽⁵⁾

日本人の配偶者を含む大勢の外国人を日本から締め出している一方で、新規感染者200人の地域から感染報告ゼロの地域への「不要不急の外出」の極みである観光旅行のキャンペーンを繰り広げる姿勢は、納得しかねる。これを「感染症予防を確立した上での経済活動」の一環と位置づけるのは、如何なものだろう。


(1)東京都と日本国の感染症対策に対する不協和音は、緊急事態宣言前から頻繁に見受けられる。
(2)https://www.asahi.com/articles/ASN7D6FX5N7DULBJ11G.html
(3)https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001351403.pdf
(4)https://www.eki-net.com/top/tokudane/kakaku_osakini_sp.html
(5)https://www.asahi.com/articles/ASN7D7D27N7DUTIL11Z.html

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