オンタリオ州3度目のロックダウンとワクチン接種の拡大
文・空野優子
オンタリオ州では桜が散り始めた2021年4月末現在、3度目のロックダウンが続いている。3度目、といっても、トロント市周辺では2020年11月に始まった2度目のロックダウンの制限がすべて解除される前に、再びロックダウンとなったので、多くの人にとってずっとロックダウンが続いている感覚だろう。小・中・高校に関しては、2月に再開した後2か月たたずに再び休校となってしまった。
去年の3月に初めてオンタリオ州で緊急事態宣言が出された時には、1年後もコロナ禍が続き、さらにより悪化した状況となるとは思ってもいなかった。とはいえ、一年たって、コロナ禍での生活制限に適応できた部分もある。例えば、学校は、二度目の休校の時からオンライン授業に切り替わり、規則正しいスケジュールで授業が行われている。
ワクチン接種に関しても、数が限られている中で、随時のデータに基づいて、優先順位が変わってきている。もともとは高齢者、医療関係者を最優先として始まった接種だが、最近になって、感染数の多い地域に優先的に割り当てるという方針が発表された。
年齢別の接種が進む中で、感染率の高い地域でワクチンの接種率が低く、逆に感染率が低い富裕層の多い地域で接種がより進んでいる、という何とも皮肉なデータが明らかになった。要因は複数あるが、感染者数が多い地域は、もともと低所得者が多く、工場など外で働かざるをえない人が多いため、もともと感染のリスクが高いこと、また移民の数が多く、英語での接種のためのオンライン予約が難しい、接種会場が遠く、車なしでは行けない、仕事の休みが取れないなど、アクセスの問題があげられている。
ある専門家が「この事態を火事に例えるならば、線香の火にホースを当てて、実際の炎から目を背けているようなものだ」言っているのを聞いたが、的を得た例えだと思う。公衆衛生の観点からも、必要な地域に優先的にワクチンを配分するというのは全体として感染者数を減らし、医療崩壊を防ぐのに有効だということであるから、一日も早く、最も必要としている人がワクチン接種できる状況になってほしい。
さて、話は変わるが、日本でも、都市部で緊急事態宣言が出されるなど、感染が広がっている。ただ、医療の専門家が助言し、政府がどの分野を閉鎖するのかを決定し発表する、というカナダの政策の流れに慣れた感覚からすると、日本のニュースを見ていて気になるのは、感染拡大防止のための政策の多くが休業の「協力要請」、移動の「自粛」など、強制力を伴わない措置であることだ。確か去年3月の全国学校閉鎖も、形式的には「要請」であった。こちらでは、決定は強制で、罰則を伴う。でなければ大多数が「自発的に要請に従い休業する」などということは考えられないだろうし、「協力」などといったあいまいな指示が出た時には、ビジネス・市民から強い抗議が起こるのではないだろうか。行政の「要請」に従うというのも日本の文化なのかもしれないが、実に不可解である。それでも今のところは、より強い制限が出されているカナダやその他欧米の国に比べて、幸いにも日本の状況は統計的に悪くないようだから、これもまた不思議だ。
ワクチン接種が順調に進み、世界各地でコロナが猛威を振るっている状況が少しでも早く改善されることを願うばかりである。