カナダ総選挙の行方とこれからのコロナ対策
文・空野優子
カナダでは現在、9月20日投開票に向けて連邦議会の選挙戦が行われている。前回の選挙から2年しかたっていないにもかかわらず、今回の選挙、ジャスティン・トルドー首相が「議会が機能不全となった」ことを理由に解散したことから始まる。
カナダには連立を組む習慣あまりがないのか、第一党ではあるが過半数に満たないマイノリティー政党として自由党が政権を運営してきたのだが、今回の選挙で過半数奪回を目指している。さて、カナダの選挙戦とはどのようなものだろうか。
まず、現在議席を持つ政党に関してはまず現在第一党の自由党(Liberal Party)、20015年まで政権を率いた保守党 (Conservative Party)、現在第三党の新民主党(New Democratic Party)、ケベック州が地盤のブロック・ケベコワ党(Bloc Quebecois)、そして現在議席数2の少数政党の緑の党(Green Party)がある。新民主党党首のジャグミート・シン氏はインド系のシーク教徒移民2世で、頭にターバンを巻いた初の主要政党の党首として、また緑の党のアナミ・ポール氏は初の黒人女性の党首として話題になったが、リーダーの多様性はカナダらしいところだ。
支持政党の傾向としては、都市部でリベラル系が強く、地方で保守系が強いのは日本にも似たところがあるが、面白いのは、広大なカナダでは地域によっても特徴があるところだ。ブロック・ケベコワ党がケベック州で強いのは不思議ではないが、アルバータやマニトバといった西部の州では保守党が圧倒的であり、東部の州では自由党が強い。そして都市と郊外、地方の混ざったオンタリオ州やブリティッシュ・コロンビア州では各党接戦のようである。
加えて、カナダらしいといえば、さすがバイリンガルの国、党首討論も両言語で行われるところ。今回の選挙ではフランス語の討論をまず行い、次の日に英語で行うようだ。党首になるにも第二言語力が問われるのだから大変だ。
さて、肝心の公約の内容はというと、経済や市民の生活に直接かかわることだけでなく、環境問題、政府とカナダの先住民との関係、銃規制、マイノリティーの権利など、多岐にわたる。また今回はコロナ対策とアフガニスタンでの危機も頻繁に取り上げられている。
議席数を伸ばして過半数を取れる見込みがあるから議会解散を決めたのだろうが、選挙戦が始まって以来苦戦しているのがトルドー首相率いる自由党である。カナダではワクチン接種が普及した今、新たな感染者が主にワクチン未接種の人であることから、接種率を上げ、新たな感染を減らすための対策として、ワクチンパスポートの導入が提案されている。医療、学校、政府関連の施設などで働く人にはワクチン接種が義務付けられるほか、レストランや映画館など、感染の可能性のある施設に入るにはワクチン接種の証明を必要とする、というものだ。
これに対して、ワクチン接種やコロナ禍での制限に反対する一部の人からのトルドー首相をはじめとした立候補者への抗議・妨害運動が続いている。これらの動きはメディアがセンセーショナルに取り上げているだけなのか、それとも実際に選挙の結果を左右するのか私にはわからない。ワクチン接種を普及させるのがコロナを乗り切るのに重要だというのは専門家の一致した見解のようだ。ワクチン接種が容易になった今、反対運動が起こっているのは残念である。
選挙まであと2週間、私自身は選挙権はないものの、これからもカナダで生活していく一人として、今後の動きを気にかけている。